2024年12月23日( 月 )

韓国経済ウォッチ~高速鉄道の受注競争(後)

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日韓ビジネスコンサルタント 劉明鎬(在日経歴20年)

senro 中国は最初、高速鉄道の技術を確保するために、広大な国土面積を武器として利用し、「市場を提供する代わりに、技術を提供してもらう」戦略で、中国に進出する企業に技術移転という前提条件をつけた。新幹線(日本)・ICE(ドイツ)・TGV(フランス)などは中国市場を先取りするために、中国のこのような技術移転という条件を呑まざるを得なかった。
 しかし、中国はこのようにして手に入れた技術を内部的に吸収し、自国の技術として発展させた。その結果、今は中国の独自技術で高速鉄道を製造し、輸出するほどまでになっている。

 どの業界でも同じであるが、とくに鉄道業界は“経験と実績”がモノを言う世界である。中国は2008年の北京~天津区間を皮切りに、7年間で総延長1万7,000kmの高速鉄道を建設したことによって、経験と実績を積み上げてきた。世界の高速鉄道の60%を建設した“経験と実績”は、相当な自信を中国に与え、習近平主席も中国の高速鉄道の売り込みに熱心になっている。
 中国はこのような経験を生かし、工期短縮を実現して結果的にコストを下げたし、また中国の安い人件費と豊富なセメント・鉄鋼なども相まって、価格競争力の源泉になっている。

 これだけではない。中国は広い国土面積を誇っているだけに、他国では経験できない環境も自国内で経験することができる。それは、他国の工事を施工するときに大きな経験になる。
 たとえば、ハルビン~大連間の高速鉄道の工事は、世界初のマイナス40度~40度という80度の温度差を乗り越えた極寒地での工事であった。このように、中国はありとあらゆる気候条件と地形条件での工事を経験しているので、大きな強みになる。
 速度の面においても、中国の高速鉄道は昨年の1月に時速605kmでの走行に成功し、07年にフランスのTGVが樹立した世界最高記録である時速574.8kmを上回った。中国の高速鉄道は11年のトルコへの輸出をスタートに、今現在では世界で20~30のプロジェクトでの受注競争に参加している。

 しかし、中国の高速鉄道の技術力については、いまだに疑問を抱いている専門家も多い。11年7月に温州市で起きた高速鉄道の衝突、脱線事故で、40名の死者と192名の負傷者を出したからだ。信号の制御にトラブルがあったとされる。日本はインドネシアの受注案件で中国と競争する際に、この中国高速鉄道の安全性の問題を取り上げたようだ。中国はこのような安全性の問題をカバーするために、金融支援と工期の短縮(日本より5年間)を提示しただけでなく、インドネシアの政府債務保証も要求しなかったようだ。
 その他にも、日本と中国が激突している主要プロジェクトといえば、インドの高速鉄道プロジェクトであろう。インドの高速鉄道は、首都のニューデリーから西部の工業都市アーメダバード、インドの最大都市ムンバイをめぐり、南部のチェンナイと東部のコルカタを経てニューデリーに戻る環状網のルートを、既存鉄道の高速化も含めて7路線に分けて整備し、全土をつなぐという壮大な構想だ。もちろんこのプロジェクトへは、中国と日本だけではなく、ヨーロッパの企業も綿密な調査と戦略で、プロジェクトを受注するために積極的である。

 なお韓国は、04年から高速鉄道を独自開発し、世界への輸出を試みているが、まだ1件も成果がない。高速鉄道プロジェクトは規模が大きく、資金面などの官民一体の体制ができないと、簡単に進められるプロジェクトではない。今後、高速鉄道をめぐる受注争奪戦は、ますます激化しそうだ。

(了)

 
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