自然災害は日本人の宿命(後)~災害は『忘れる前』に
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拓殖大学地方政治行政研究所客員教授 濱口 和久 氏
92年前の9月1日に発生した関東大震災は、10万5,000人以上という多くの尊い命を奪い、かろうじて生き延びた人々を、建築物を倒壊または焼失させることで路頭に迷わせた。それだけではない。その深い爪痕は国家財政を逼迫し、国民全体の負担となって長く残されたのである。その経済的被害規模は、当時の国民総生産(GNP)推定値の35パーセントにあたる55億円に匹敵するものだ。これは前年度の一般会計予算の実に約3.7倍にもなる、とてつもない金額であった。
30年以内に70パーセントの確率
関東大震災の発生は、まったく予測されていなかったというわけではなかった。この点において、現代を生きる日本人は、教訓を得なければならない。
地震学者の今村明恒博士は、明治38(1905)年、過去の「地震発生の周期説」に基づいて、今後50年以内に東京で巨大地震が発生すると警告し、震災対策についての記事「市街地に於ける地震の生命財産に對する損害を軽減する簡法」を雑誌『太陽』に寄稿した。この記事は、他の地震学者からは「世情を煽る浮説」として批判を受け、「ホラ吹きの今村」と中傷された。しかし、今村博士の警告したとおり、18年後に東京を中心とした関東全域を襲う巨大地震が起こった。それが関東大震災である。
現在、首都直下地震や南海トラフ巨大地震(東海、東南海、南海地震が同時に起こる3連動地震)が、過去の地震発生の周期などから「今後30年以内に70パーセントの確率で起こる」と予想されている。世界各地で起きている地震の約10パーセント、マグニチュード6クラスの地震の約4分の1が、日本列島に集中していることも忘れてはならない。
備えあれば憂いなし
一般的に、戦争や紛争は、人種、民族、宗教、国家間同士の対立から起こるものであり、人間に理性が働けば回避することは可能である。それに対して、自然が引き起こす災害は、現代の科学技術で防ぐことは難しい。つまり、人間は自然災害に対しては無力でしかないと言える。地球物理学者の寺田寅彦博士は、「災害(天災)は忘れた頃にやってくる」という言葉を残したが、私たちが暮らす日本列島に限って言えば、近年における自然災害の発生頻度を見る限り、「災害は忘れる前にやってくる」という時代に突入していると言える。
事実、4年半前の東日本大震災以降、地震に限らず、台風や豪雨、川の氾濫や土砂崩れ、火山の噴火など、さまざまな自然災害が日本列島で頻発していることは周知の通り。もはや、日本人は自然災害から絶対に逃げることができないという運命を自覚しなければならない。とくに、首都直下地震や南海トラフ巨大地震がひとたび起きれば、壊滅的な被害を受ける可能性が極めて高い。「備えあれば憂いなし」ということわざがあるが、少しでも被害を少なくするためには、この精神こそが必要なのだ。
(了)
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