2024年11月22日( 金 )

TPP大筋合意アトランタ現地報告(4)~山田正彦元農水相

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なぜ韓国はTPP参加めざす?

 ――ところで、米韓FTAで痛い目にあった韓国がなぜTPPに参加しようとしているのですか。

山田 正彦 氏<

山田 正彦 氏

 山田 まず、韓国は、ISD条項が変わると思ってTPPに入ろうとしている。米韓FTAで大きな問題になっているのがISD条項だ。韓国は今、4つくらい大きな国内制度を変えないといけなくなって困っている。

 TPPでは、ISD条項で濫訴防止の措置がとられたと言っているけれど、日本政府の概要を見ても全然違う。ISD条項は、世界銀行傘下の国債投資紛争解決センターで審理する。1審制度で、3人の審判員がいて、当事国からそれぞれ1人選ばれる、たとえば日米間の紛争なら、1人は米国が選んだ者、1人は日本が選んだ者、あとは、世銀が選ぶが、世銀の大出資国は米国だから、2対1になることになっている。そこで、濫訴かどうか、不当な訴えかどうか事前に審査できるとなっているが、審判員の構成は変わらないので、濫訴防止できない。話にならない。

 次に、市場拡大の期待だ。韓国は、経済不振になっていて、サムソンや現代などの韓国企業は困っている。朴槿恵大統領は、韓国の大企業、日本で言えば、経団連に支えられている。すでに米国に市場を開放しているから、韓国企業は、できるだけ市場を広げたいので、「TPPに入ってくれ」と政府に求めている。

米国は2017年まで批准できない

 ――グローバリゼーション、市場原理主義の方向に、日本の統治機構の基本構造が変わる。これ、すんなりいきますか。

 山田 米国は、2017年までは議会が同意しない。米国は、憲法上大統領には外交交渉権限がなく、議会にあるから、大統領に外交交渉権を与えるTPA法案を否決された後、1票差でやっと可決させた。反対したのは民主党の議員が多い。日本の連合にあたる労働総同盟のトラムカ会長がTPA法案通る前に来日した時にお会いした。「アメリカの労働団体は全部、TPPに反対だ、環境団体も1つだけ賛成しているが、ほかは全て反対だ」と話していた。民主党の支持母体は、環境団体と労働団体だ。だからヒラリー・クリントン氏も、TPPに反対の姿勢だ。来年大統領選挙があり、2016年2月から予備選挙が始まるから、批准どころの話ではない。外交は1年間ストップする。

 しかも、民主党も共和党も、下院議員は大統領選と一緒に総選挙だ。小選挙区だから、支持母体の労働組合と環境団体の意見を聞かないといけないから、民主党でTPAに賛成した40人くらいの下院議員も、TPPに賛成したら次の議席がない。TPAでさえ一度否決された。共和党のトランプ氏もTPPを猛烈に批判している。大統領は署名しないし、議会も同意しない。米国で通らなかったら、それでTPPは終わりだ。

 米国は1年間動かず、2017年1月から米国議会が始まる。2017年が勝負だ。だから日本も、急ぐ必要はない。米国は、各国の反対や抵抗が強いから、日本に最初に批准させようとしている。
 日本政府は、来年の通常国会、あるいは来年は参院選挙があり、農民の反対が強いから、参院選挙が終わった後の国会で批准する動きがある。

参院選はオールジャパンで戦うべきだ

 ――来年夏の参院選挙は、大きな意味を持っていますね。

 山田 民主党も、共産党も1つになって戦わないと駄目だ。オールジャパンで戦うべきだ。安保法案の共闘を生かして、1人区で野党が勝つ流れがつくれる。米国は、今年来年は絶対批准できないし、2017年もどんどん内容が明るみに出てくると、絶対批准できない。

 日本での私たちの闘いはこれからだ。今、私たちにできることは、まず、裁判でTPP交渉、協定を止めることだ。私たちは、TPPは違憲だとして、交渉差止を求めて提訴している。11月16日に第2回口頭弁論が開かれる。韓国からもソンキボ弁護士ら9人が裁判の傍聴に来る。今、第3次提訴を準備中で、約300人が追加提訴に加わり、原告数が2,000人になる。ぜひ原告になってほしいし、傍聴に来て、私たちが主権者として、これだけの人が反対している熱意を訴えてほしい。オールジャパンで頑張っていこう。

(了)
【取材・文:山本 弘之】

▼関連リンク
・TPP交渉差止・違憲訴訟の会

<プロフィール>
yamada_pr山田 正彦(やまだ・まさひこ)
元農林水産大臣。弁護士。TPP交渉差止・違憲訴訟の会幹事長。1942年、長崎県五島生まれ。早稲田大学卒業。牧場経営などを経て、1993年の初当選以来衆院議員5期。農業者戸別所得補償制度実現に尽力。『輸入食品に日本は潰される』(青萠堂)、『小説 日米食糧戦争 日本が飢える日』(講談社)、『TPP秘密交渉の正体』(竹書房新書)など著書多数。

 
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