2024年12月23日( 月 )

地球のための1%、パタゴニアらしさの1%(1)~ビジネスの手法を変える挑戦

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パタゴニア日本支社長 辻井 隆行氏

 「社員をサーフィンに行かせよう」のキャッチコピーで知られるユニークな経営理念をもつのが、米国アウトドアウェアのパタゴニアだ。けっして従業員が遊んでいる会社ではない。「最高の製品を作り、環境に与える不必要な悪影響を最小限に抑える。そして、ビジネスを手段として環境危機に警鐘を鳴らし、解決に向けて実行する」というユニークなミッションを持ち、すべてのコットン製品をオーガニックコットン100%に切り替えるなど意欲的な取り組みで、世界全体7億6,000万ドルの売り上げをあげる。辻井隆行・日本支社長に、パタゴニアの組織づくりに焦点をあてて、パタゴニアらしさとは何か、ビジネスをどう成長させているのか、取り組みを聞いた。

(聞き手・山本 弘之)

4つのコアバリュー、目標に到達する姿勢へのこだわり

 ――いま、企業の目標達成、成長は、組織のベクトルを合わせられるかにかかっていると言われ、ミッションの重要性が注目されています。パタゴニアは、最高の品質、環境負荷の低減、ビジネスを手段として環境問題解決を実行するという創業者イヴォン・シュイナードを中心につくったユニークな理念を持っています。辻井支社長は、ユニークなミッションはビジネス全体では1%であり、「1%の違い」を大切にしながら、それ以外の99%を高めるとおっしゃっています。パタゴニアらしさの1%とは何か、99%を鍛えている取り組みをお聞きしたいのですが、まずは、4つのコアバリューという行動指針が、どのようにして生まれ、今どのように展開されているのかお聞かせください。

パタゴニア日本支社長 辻井 隆行 氏<

パタゴニア日本支社長 辻井 隆行 氏

 辻井 コアバリューは、「質」、「インテグリティー」、「環境主義」、「慣例にとらわれない」という4つの価値基準のことで、判断や行動の基準となるものです。コアバリューを頭で理解することは、基本的にだれでもできると思いますが、それを体現しようとすると、頭で理解するほど簡単ではありません。ビジネスを行う上で、何かを達成したいと思った時に、達成するための道順はたくさんあります。それは方法論的にもたくさんあるし、取り組む姿勢としてもたくさんありますが、その取り組みの姿勢が自分たちにとっては大切です。コアバリューは、それを保つためのガイドのようなものだと思っています。

 たとえばイヴォンがよく使うクライミングのたとえ話があります。クライミングの目的は、山頂など、山の「ある地点」に到達することです。でも、例えば山頂自体に何か価値があるわけじゃありません。イヴォン曰く、「そこには小さな空地、平らな地面があるだけだ。そこにどうやって到達するかが大事なんだ」と。「どうやって」という方法については、効率のいい登攀(とうはん)方法や安全に到達するための技術などが挙げられますが、もう1つ考えなければならないのは、取り組む姿勢や態度の問題です。たとえば、ある山に登るために4泊5泊の行程が必要だとします。山頂に到達するには、荷物は軽い方が良いに決まっているし、安全に登ることにもつながる。でも、その際、持っていった食料のゴミを捨てるのか、持って帰るのか、人工物を壁に打ち込んだら残置するのか、しないのか、そういうことが私たちにとって大事なわけです。

 同じようにビジネスのゴールを達成する時にも、一番効果的なマーケティングの手法や一番効率的な成長プラン、正確な会計監査のための知識などは当然大事で、それをないがしろにして、バリューのところだけを一生懸命に取り組んでも、安全に頂上に到達することはできないはずです。けれども、登頂そのものを価値あるものにするために、私たちはやり方にもこだわりたい。それを支えるのがコアバリューだと思っています。

(つづく)
【山本 弘之】

<プロフィール>
tujii辻井 隆行(つじい・たかゆき)
1968年生まれ。早稲田大学卒業、実業団サッカー部所属。引退後、早稲田大学院社会科学研究科修士課程修了。シーカヤックインストラクターを経て、1999年、パタゴニアにパートタイムスタッフとして働き、2000年に正社員。2009年から日本支社長。

 
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