TPPは協定の名を借りたアメリカの国家侵略!(後)
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立教大学 経済学部 教授 郭 洋春 氏
日本のすべての産業そして社会全体に損害
――日本はTPP交渉に参加、締結に向けて動き出しています。ある意味、これは「戦争法案」と言われる「集団的自衛権」以上に国民の生活を直撃します。最後に何かアドバイスをいただけますか。
郭 私はTPPというのは「21世紀版アメリカ経済帝国主義」と考えています。TPPは協定の名を借りたアメリカの国家侵略なのです。日本国民の皆さんには、そのことを充分に認識していただく必要があります。
ご注意いただきたいことはたくさんありますが、今一番気になっているのが、「日本ではTPPを語るうえで中小企業の在り方についてはほとんど議論されていない」ということです。日本政府もまったくと言っていいほど触れていません。しかし、韓国同様日本も、全企業数の99%以上が中小企業です。
貿易の自由化を拡大すると言っても、米韓FTAもTPPも事実上、一部の大企業、輸出型企業のための政策です。では、中小企業が影響を受けないかと言うと、恩恵はまったくないにも拘わらず、大きな影響を受けてしまうことです。
日本がTPPに加盟すると、外国人労働者が大量に流入してきます。それにともなって、その外国人労働者を雇用する外国企業が入ってきます。地方の公共事業の入札に、堂々と外国企業は参加してきます。結果的に、地元企業の入札価格は人材不足から高くなり、積極的に人件費の安い外国人労働者を雇っている外国企業が入札で勝利することになります。韓国でも、このことが懸念されています。米韓FTAでもTPPでも、基本は(1)「市場への自由なアクセス」、(2)「自由な経済活動」という大きな2本の柱でできています。しかし、これは条約国に等しく与えられた権利ではなく、「ISDS条項」を行使した後に裁判・仲裁で勝利できるアメリカだけに与えられた権利です。締結時点で大きな「不平等条約」になっています。
「“自由”な経済活動」というのは、とても気をつけなくてはいけないフレーズです。これまでお話ししてきた通り、アメリカの多国籍企業にとってみれば、相手国の環境を破壊するのも“自由”な経済活動であり、人体に大きな影響をおよぼしかねない遺伝子組み換え食品を、そのことを明示せず販売するのも“自由”な経済活動になっているということです。
ソウル市は「ソウル市親環境無償給食支援に関する条例」の「遺伝子組み換え食材の使用を禁止する」という規定が米韓FTAに違反し紛争(「ISDS条項」発動)に巻き込まれる可能性があるという衝撃的な発表をしました。
子どもたちの健康を考えてソウル市が制定した条例が、アメリカ企業の“自由”な経済活動の邪魔になるというのです。似たようなことはTPPを締結した後の日本でも当然起こります。アメリカの食品関連企業にとって、学校給食ほど莫大な利益を生む市場はないからです。「子どもたちの健康より、外国企業の利益」を優先させられるのがTPPなのです。
アメリカの政府高官は、明確に「米韓FTAとは、韓国の法律・制度・習慣を変えることが最大の目的」と言っています。これを裏づけるように韓国政府は、米韓FTAに基づき、70を超える法律の改正に着手しています。当然、日本の法律・制度・習慣や伝統文化も大きな影響を受けます。本日は、主に日本国民の多くがご存知で、関心のあると思われる「ISDS条項」について、詳しくお話させていただきました。しかし、米韓FTAに仕掛けられているトラップ(罠)「ISDS条項」は、ほんの氷山の一角に過ぎません。
その他に、「ラチェット条項」(後になって見直したいと思っても、それが許されない、特に「投資」、「越境サービス貿易」、「金融サービス」に盛り込まれています)、「非違反提訴条項」(当事国が何ら違反する行為をしていなくても、そこで外国の企業が当初考えていたような利益を上げることができなかったら、当事国を訴えることができる制度、これはTPPにも入ります)、「サービス業非設立権」(サービス業については、投資先に事業所等を設立しなくても営業することができる権利。法律違反しても営業停止する肝心の事務所もなく、企業の所在地がないので税金を徴収できません)、「スナップバック条項」(スナップバックは「手の平を返す」と言う意味です、これはアメリカ政府が、韓国製自動車がアメリカ製自動車の販売・流通に深刻な影響をおよぼすと判断した場合、「韓国製自動車の輸入関税撤廃を無効にできる」というものです。ただし、この条項はアメリカには適用されますが、韓国には適用されません、TPPにも入ることが予測されます)、「間接接収」(公共の利益より私有財産を優先させるというものです。投資家による土地所有に制限を設けることができなくなり、韓国では、米韓FTA発効後、アメリカ人投資家による土地取得が急速に進んでいます)などまだたくさんあります。最後に、今日本ではTPPをめぐる議論を「輸出産業(賛成派)対農業(反対派)」といった産業間対立として受け止める傾向がありますが、この見方は大きな誤りです。TPPは日本のすべての産業、そして日本社会全体に、大きな損害をもたらす可能性があります。実際に、そのことは「TPPは米韓FTAの貿易自由化のレベルをもっと強めたモノ」とアメリカ政府高官が言う、「米韓FTA」の韓国では実証されつつあります。日本もアメリカから「農業をはじめ、多くの分野で保護主義的政策をとっているのでないか」と非難されています。日本がTPPに加入すれば、アメリカの企業から日本政府が訴えられる可能性は極めて高いと言えるのです。
――本日はありがとうございました。
(了)
【金木 亮憲】<プロフィール>
郭 洋春(カク・ヤンチュン)
1959年7月生まれ、立教大学経済学部教授。専門は、開発経済学、アジア経済論、平和経済学。著書として、『韓国経済の実相─IMF支配と新世界経済秩序』(柘植書房新社)。『アジア経済論』(中央経済社)、『現代アジア経済論』(法律文化社)、『開発経済学―平和のための経済学』(法律文化社)。共著として『移動するアジア』(明石書店)、『環境平和学』(法律文化社)、『グローバリゼ―ションと東アジア資本主義』(日本経済評論社)、その他多数。関連記事
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