2024年11月25日( 月 )

食料は軍事・エネルギーと並ぶ国家存立の3本柱!(2)

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東京大学大学院 農学国際専攻 教授 鈴木 宣弘 氏

米国が目論む「農協」組織の解体

 ――「農協改革」と一口に言いますが、その陰では壮絶な闘いが繰り広げられているのですね。

hatake 鈴木 安倍政権は今、「全農」(全国農業協同組合連合会)の株式会社化の議論を進めています。これには、共販や共同購入体制を崩し、一部の巨大企業が農産物の安値買い取りと生産資材ビジネスを拡大させる意図があると指摘されています。

 しかし、実は別の大きな目的も隠れているのです。米国は、すでに日本人が食べる「大豆・トウモロコシ」の大半を遺伝子組み換えにすることに成功しました。次に、米国は日本に遺伝子組み換えの「小麦」を入れようと考えています。ところが、現在は「全農」傘下にある「全農グレイン」がニューオーリンズにある世界最大の穀物船積施設で、きっちりと遺伝子組み換え分別管理を行っています。これが目障りなのです、そこで、モンサント社とカーギル社が組んで「全農グレイン」の買収しようとしましたが、それは、親組織の「全農」が株式会社でなかったため、無理でした。
 そこで、今度は「全農」を株式会社にして、「全農」そのものを買収することを考えています。そこに、官僚・政治家と大マスコミが加担しています。

 米国の多国籍企業によるいわゆる「農業組織」の解体は、すでにオーストラリアで前例があります。オーストラリアの農業組織は、当時CIAが入り悪い評判を立てられ、株式会社化された後に、カナダの肥料会社に売却させられました。そして、その1カ月後には、その肥料会社から米国の多国籍企業カーギル社に売却されています。

 今、懸念されているのは、日本の食料が全て米国の多国籍企業カーギル社によってコントロールされ、一方で同じ米国の多国籍企業モンサント社から、大豆・トウモロコシに限らず遺伝子組み換え食品が入ってきて(TPPでは、米国と同様、遺伝子組み換え食品であるかどうかの表示義務の撤廃が目指されています)しまうことです。

1%の1%による1%のための協定

 ――いきなり深い話になってしまいました。この辺で、話を戻して、そもそも「TPPとは何か」から教えていただけますか。

 鈴木 TPPは、2006年にできたP4協定(シンガポール、ニュージーランド、ブルネイ、チリの4カ国の協定)を米国の多国籍企業が「ハイジャック」したものです。米国の多国籍企業は、このP4協定に乗ることで、利益拡大に邪魔な各国の独自のルールを壊す流れを世界に広めようとしました。
 規制緩和が原則ですが、時には「新薬」の特許期間延長など、規制強化で相手国の環境や国民の健康を阻害しても、米国企業が儲けられるようなルールづくりが進んでいます。
 日本では、「成立歓迎」の報道ばかりが目立ちますが、当の米国では、労働者や市民の声を受けた与党・民主党が猛反発して、「企業利益vs市民利益」の国論2分の対立が現在でも続いています。

 来日したノーベル経済学賞学者のスティグリッツ教授は、「TPPは米国企業の利益を守ろうとするもので、日米両国民の利益にならないし、途上国の発展も妨げる」と明確に指摘しています。つまり、「1%の1%による1%のため」の協定です。「99%」の人々が損失を被っても、「1%」の人々の富の増加によって総計としての富が増加すれば効率的だと考える乱暴な論理でできています。

 安倍政権は、地方創生とか10年で農業(農村)の所得を倍増すると言っています。しかし、TPPでは、国会決議を実質的に反故にした譲歩を続け、所得のセーフティネットを廃止し、農業関連組織を解体して、所得倍増、地方創生など、“常識的に考えて”できるはずがありません。もし、できるとすれば、それは、「今頑張っている農家(99%)は全部つぶれてもいい。わずかな条件の良い農地だけに、大手の流通企業(1%)などが参入して、農業をやり、その彼らの所得が倍になったら、所得倍増の達成である」というシナリオです。そこには、伝統も、文化も、コミュニティもなく、日本の地域の正しい繁栄とはとても言えません。

 しかし、安倍政権は本気で、日米大企業のために、農家をつぶし、地域をつぶしても構わないと考えているようです。現に、側近の人物は「企業が手を出さないような非効率な中山間地は、そもそも税金を投入して、無理に住んでもらう必要はない。原野に戻した方がいい。早く引っ越した方がいい」と繰り返し発言しています。

(つづく)
【金木 亮憲】

<プロフィール>
suzuki_pr鈴木 宣弘(すずき・のぶひろ)
1958年三重県生まれ、82年東京大学農学部卒業。農林水産省、九州大学大学院教授、コーネル大学客員教授を経て、2006年より東京大学大学院農学国際専攻教授。専門は農業経済学。農業政策の提言を続ける傍ら、数多くのFTA交渉に携わる。著書に『食料を読む』(共著・日経文庫)、『WTOとアメリカ農業』、『日豪EPAと日本の食料』(以上、筑波書房)、『食の戦争』(文藝春秋)、『岩盤規制の大義』(農文協)など多数。

 
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