2024年11月21日( 木 )

現代アートは資本主義を最も先鋭的に表現する!(1)

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東京画廊代表取締役社長 山本豊津氏

 フランスの経済哲学者、セルジュ・ラトゥーシュは「今の消費社会は、成長経済によって支えられているが、その成長は人間のニーズを満たすための成長ではなく、成長を止めないための成長だ」と言っている。現在、日本でだけでなく、世界中がこの資本主義社会の成長(拡大再生産)システムに限界を感じている。では、私たちはこの先に何を見ることができるのだろうか
今注目の近刊『アートは資本主義社会の行方を予言する』(PHP新書)の著者で、日本屈指の画廊「東京画廊」オーナー、山本豊津氏に聞いた。山本氏は「現代アートは難しくてわかりにくいものではなく、現代社会に起こるすべての事象に関わる“価値”と“意味”を持っている」と語る。

「アート」と「資本主義」が並ばない日本は大丈夫か
 ――今、巷で話題となっている先生の近刊のタイトルでは、「アート」という言葉と「資本主義」という言葉が並んでいます。少し、違和感を持ちました。この本をお書きになった動機から教えていただけますか。
東京画廊代表取締役社長  山本 豊津 氏

 山本豊津氏(以下、山本) 僕は美術商です。狭い意味の“アート(美術・芸術)”そのものに埋没してしまっては、仕事になりません。美術商は、マネージメントを、資本主義を理解していないと、欧米では商売が難しいのです。

たとえば、日本の上野にある国立西洋美術館でレオナルド・ダヴィンチ作「モナリザの微笑」の展覧会を開催するとします。そうすると、パリのルーヴル美術館から日本までの輸送代はいくらなのか、保険はいくらなのか、為替はどう処理するのかなど、多くの問題について検討しなければなりません。とくに保険の問題は大事なのですが、作品に値段がついていなければ、保険は掛けられません。

しかし、私は約8年、武蔵野美術大学で教えていますが、たとえば芸術文化学科には、経済学の授業はありません。これは同大学だけでなく、日本の美術大学のほとんどすべてに共通したことです。一方、欧米の美術・芸術大学では経済学を学ぶことができます。1766年に創業した世界で最も長い歴史を誇る美術品オークションハウスであるクリスティーズでは美術学校を経営しています。別の例で言えば、日本では建築学科は工学部にありますが、
ヨーロッパでは芸術学部にあります。このことは、建築・芸術が社会と強く、密接に繋がっていることを如実に表しています。

純粋にものを創る美術家、芸術家になる方を含めて、社会に出て、美術・芸術関係の仕事をしていく場合、資本主義のことなど、経済学の知識がないと話にならないわけです。
逆説的な言い方になりますが、「アートと資本主義が並んでいない日本は本当に大丈夫なのか」とさえ感じてしまいます。
『資本主義という謎』という本を読んで意を強くしました
 ――なるほど、目から鱗です。日本は、とくに大学関係者の間では、「美術・芸術は実態経済と関係してはいけない」とか、「経済学者は現実の政治と関係してはいけない」などといった漠然としたイメージがあります。

 山本 日本は文化と政治も大きく離れています。これはまったく意味のないことで、誤っていると考えています。それは、そもそも政治というのは、文化そのものだからです。イギリスやフランスの民主主義と日本の民主主義は異なります。欧米からやって来た民主主義は、日本列島に入った時点で、日本様式の民主主義に変化を遂げるわけです。

私は常日頃から以上のようなことを考えて参りましたが、ある時『資本主義という謎』(※注1)という本に出会い、意を強くしました。この本は対談形式で構成されているのですが、対談者の1人である大澤真幸氏は社会学者で、政治・経済のみならず、文化・芸術まで幅広い視点から、その謎に迫っています。もう1人の水野和夫氏は、私も対談をしましたが、その著書『資本主義の終焉と歴史の危機』(集英社新書)を通じてご存知の読者も多いと思います。水野氏は『資本主義の終焉と歴史の危機』を、演出家である鈴木忠志氏(※注2)の演劇を見て書こうと思ったそうです。『リア王』や『ヴェニスの商人』など、シェィクスピア作品のなかには、資本主義、そして経済の問題がたくさん散りばめられています。


(つづく)
【金木 亮憲】

【注1】『資本主義という謎』(NHK出版新書)水野和夫&大澤真幸著
なぜ西洋で資本主義が誕生したのか、そして支配的なシステムになりえたのか? 経済のみならず、私たちの生き方をも規定している資本主義の本質について、16世紀からの歴史をふまえ、宗教・国家・個人との関係にいたるまで徹底討論している。

【注2】鈴木忠志氏 演出家
「早稲田小劇場」出身で、1976年より富山県利賀村に活動の拠点を移し、それ以来、合掌造りの利賀山房など5つの劇場を舞台に作品を作り続けている。
「ミクロサロン」2015
12月11日(金)~26日(土)の期間、東京画廊+BTAPでは、1年の最後を締めくくる展覧会として、国内外問わず新世代からキャリアを積んだベテランアーティストまでの作品を一挙に、銀座ギャラリーに展示する。

<プロフィール>
山本 豊津(やまもと・ほづ)
東京画廊代表取締役社長。1948年、東京生まれ。71年、武蔵野美術大学造形学部建築学科卒業。元大蔵大臣村山達雄秘書。2014、15年アート・バーゼル(香港)、15年アート・バーゼル(スイス)へ出展、日本の現代美術を紹介。アートフェア東京のコミッティ、全銀座会の催事委員を務め多くのプロジェクトを手がける。02年には、弟の田畑幸人氏が北京にB.T.A.P(BEIJING TOKYO ART PROJECTS)をオープンした。

 

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