2024年12月23日( 月 )

苦境にあえぐ家電量販店の生きる道

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消費増税による駆け込み需要の反動などで、売上高の低迷にあえぐ家電量販店の姿が、2015年3月期(ビックカメラは8月期)決算で浮き彫りとなった。その中でも踏ん張りを見せるヨドバシカメラと、「免税店」としてインバウンド中心の業態転換の道を歩み、急成長を遂げるラオックスの戦略に、家電量販店の生きるヒントが見えそうだ。

ネット販売で売上高7,000億円を目指す
 まず、家電大手5社の業績は以下の通りだ。
 とくにヤマダ電機は不採算店舗の一斉閉店が話題となったが、そんな状況でひとり気を吐くのがヨドバシカメラだ。1960年設立以来、いまだに未上場の同族経営で、現在も80歳を迎えた藤沢昭和社長が陣頭指揮を執っているという。

 むやみやたらに店舗数を増やさず主要駅前に出店を集中し、社員の数を急激に増やさず販売員が商品知識や接客技術を蓄積する。そんな独自路線を貫いているヨドバシだが、ひとつ悩みのタネがあるようだ。
長年、商業施設のコンサルティングに携わってきた(株)天水代表の天水義勝氏は、「ヨドバシカメラはリアル店舗の大阪・梅田店と東京・新宿本店や秋葉原店で売上を支えているが、そのほかの店舗は良くて前年比横ばいか大半は前年割れしている」と指摘する。

 そこでヨドバシカメラが将来を見据えて注力しているのが、ネット販売(eコマース)だ。このネット販売の伸びがリアル店舗の売上と経常利益の減少を1ケタで食い止めた要因ともなっている。

 『月刊ネット販売』の売上高調査によれば、14年度のネット販売の主要300社の合計売上高は2兆9,380億円(前年比+10.2%)だった。アマゾンジャパンがダントツのトップで、2位は「ベルメゾンネット」千趣会、そして3位にヨドバシカメラが食い込んでいる。

 「藤沢昭和社長の息子である藤沢和則副社長がITに長けており、後継者として、実店舗での商品販売とネット店舗での販売を連携させたオムニチャネルの強化を積極的に推進しているようだ」(天水氏)

 藤沢副社長が「名実ともに総合ネット通販を目指す」と公言しているように、ネット販売の売上高は16年度中には1,000億円を達成する見込みだという。そのため、神奈川県川崎市に延べ5万坪の物流センターを、来年夏をメドに建設中。将来、店舗と同等の7,000億円で合計1兆4,000億円の水準を目指しているとされる。
アマゾンの対抗馬といわれる所以がここにあり、収益性において他の追随を許さぬ背景でもある。
「爆買い」で利益「爆上げ」
 福岡において、競合店を尻目にすさまじい売上を実現していると言われるのがラオックスだ。源流は1930年に東京都墨田区で始まった電気器具の行商からで、76年にラオックス(株)が設立された。大手家電量販店の一角を占めて一世を風靡した時期もあったが、その後業績不振で09年に中国最大手の家電量販店チェーンの蘇寧電器の傘下となると、家電量販店の衣を脱ぎ捨て「日本国内最大の免税店」と謳うようになった。

 15年6月中間決算は、売上高が前年比で2.2倍の451億円、経常利益は19倍の49億円更に1~9月期の連結決算は売上725億円純利益が71億円とまさに中国人観光客の「爆買い」で利益を「爆上げ」したかたちだ。
福岡では「キャナルシティ博多」に店舗を構えており、「中国からのクルーズ船の来航時には、一度に2,000~3,000人の来店客が訪れ、1~2時間で8,000万~1億円程度の買い物をする。シャワー効果でキャナルシティ内の他店も大きな恩恵を受けている」(天水氏)。

 この言葉が示す通り、今年4月に運営会社の福岡地所(株)の発表によれば、「キャナルシティ博多」は前年比7.7%増の450億円だった。「木の葉モール橋本」「リバーウォーク北九州」も加えた主要3施設の売上を押し上げた最大要因に、インバウンド効果をあげており、クルーズ船客のみの来場で前年度の8倍程度、施設への直接的な集客効果は年間約18万人程度と同社は分析している。

 「これだけのインバウンド効果がキャナルシティで実現しているのに、それが天神周辺には及んでいない。原因は天神界隈で観光バスを止められないからという理由だけ。天神界隈の商業施設はみすみすインバウンドによる爆買いの機会損失を招いている。それが非常にもったいない。今年で260隻強。28年は400隻が見込まれており天神界隈は短時間の観光バスの駐停車等の手を打つべきだ」(天水氏)

 ヨドバシとラオックス、この2社の例のような思い切った戦略的路線変更を決断・実践しなければ、家電量販店は今のままでは生き残れないのかもしれない。
【大根田 康介】

 

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