2024年11月25日( 月 )

2016年中国経済展望~人民元が「主要通貨」の第3位に!(1)

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(株)アジア通信社代表取締役社長 徐静波氏

 11月16日に閉幕した主要20カ国・地域(G20)による首脳会議では、世界経済減速の「震源地」ともされる中国経済への注文が相次いだ。しかし、中国の習近平国家主席は「中国経済への関心は分かるが、今後も比較的早い『中高速成長』をする自信も能力もある」と中国責任論にきっぱりと反論した。
一方、11月30日には、IMFが「人民元」を、円を上回る「主要通貨」の第3位とした。2016年の中国経済はどのような様相を呈するのか。
今話題の書『2023年の中国』(作品社)の著者で、(株)アジア通信社代表取締役社長兼中国経済新聞編集長の徐静波氏に聞いた。

過去30数年の経済体制とは全く異なる「新常態」を構築

 ――本日は2016年の中国経済に関してお聞きしたいと思います。その前に、まず2015年を振り返っていただけますか。

(株)アジア通信社代表取締役社長 徐 静波 氏

(株)アジア通信社代表取締役社長 徐 静波 氏

 徐静波氏(以下、徐) 2015年の中国経済は大変な1年だったと思います。中国は昨年まで、アジア経済はもちろん、世界経済においても機関車の役割を果たしてきました。
 しかし、習近平政権が誕生、第1期政権(2013年~2018年)を中国の総合的な整理整頓期と位置づけ、最初の2年間を使って、中国共産党の隊列と公務員体制を整え、役人の自己規制力を強化してきました。「ハエはうつべし、虎も打つべし」という高官をも容赦しない反腐敗運動は、まさにそのためでした。そして、共産党の自己管理及び自家浄化のシステムと制度を樹立し、「法治国家」の体系と土台を確立させ、「革命」の党から「執政」の党へと共産党の性格を転換させました。

 一方で、習政権は経済については、中国の政治体制を維持しながら、政府官界が操作する過去30数年の経済体制とは全く異なる「新常態」を構築しようとしています。この2年間で、習政権は政権幹部や指導者、経営者など全ての国民に、「中国の在り方をもう一度冷静に考えてみよう」というメッセージを送り続けました。中国国民はここ30数年の間、「昨日より今日は給料がよくなる」、「明日は今日より良い生活ができる」、「株などに投資・投機して、一気に大金を手にする」などの生活に慣れてきました。しかし、その反面、中国社会には中央及び地方の政府高官汚職・腐敗など様々な矛盾が残っています。例えば、中国のGDP総額はすでにアメリカに続いて世界第2位となりましたが、「沿岸地区はヨーロッパであり、内陸地区はアフリカである」という地域格差が広がっています。

 そこで、第1期政権の残りの3年間(2016年~2018年)は、習主席は経済体制の改革と市場経済の全面的推進に力を入れ、「速度抑制した水平飛行」のモデル(経済の急上昇から安定した成長への移行)によって、今までの単純なGDP成長率の向上ばかりを目指す猪突猛進型モデルではなく、中国の経済・社会発展・環境保護をバランスの取れた合理性のあるものにさせる方針を立てています。

資源消耗型・環境汚染型などの荒削りな発展モデルを転換

 ――なるほど、中国経済は“失速”と言われますが、それはバブルの崩壊ではなく、経済が「新常態」に向かうための、政府主導による調整期と考えるわけですね。ところで、「新常態」とはどんな意味ですか。

 徐 14年10月20日に開催された中国共産党中央委員会第4次全体会議(「四中全会」)で、「経済成長率が10%を超えた高度成長への幻想を捨て、多少ふらつきながらも7%台の安定成長を維持する。大規模な刺激策は採らず、小刻みな政策調整で景気を下支えする」という「新常態」の経済運営の基本方針が決定されています。

 具体的には、資源消耗型・環境汚染型の荒削りな発展モデルを転換し、長期平行飛行の安定成長モデルを今後の中国の基本戦略としています。不動産、石炭、土地、鋼材などの投機的売買は、新常態政策の中では継続が難しくなります。つまり、浮ついた心理状態を捨て、持ち流れに順応できなければ、持続可能な発展は維持できないということです。

 今、中国社会は計画経済から市場経済へと移行しつつあります。しかし、今後も含めて、中国社会が全て市場経済になってしまうと、コントロールできなくなり、大きな混乱が起こってしまうと考えられています。同じ市場経済という言葉でも、アメリカとも、日本とも異なる市場経済の構築を目指しています。

(つづく)
【金木 亮憲】

<プロフィール>
jo_prf徐 静波(ジョ・セイハ)
 政治・経済ジャーナリスト。(株)アジア通信社社長、『中国経済新聞』編集長。中国浙江省生まれ。1992年に来日し、東海大学大学院に留学。2000年にアジア通信社を設立し、翌年『中国経済新聞』を創刊。2009年に、中国ニュースサイト『日本新聞網』を創刊。著書に『株式会社 中華人民共和国』(PHP)、『2023年の中国』など多数。訳書に
『一勝九敗』(柳井正著、北京と台湾で出版)など多数。日本記者クラブ会員。
 経団連、日本商工会議所、日本新聞協会等で講演、早稲田大学特別非常勤講師も歴任。

 
2016年中国経済展望~人民元が「主要通貨」の第3位に!(2)

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