2024年11月22日( 金 )

企業研究・LIXILグループ(後)~次期社長に内定した瀬戸欣哉氏とは何者か

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 (株)LIXILグループ(以下・リクシル)の次期社長兼最高経営責任者(CEO)に内定した(株)MonotaRO(モノタロウ)会長の瀬戸欣哉氏(55)が1月8日、報道各社の取材に応じた。リクシルグループは昨年12月、今年6月に藤森義明社長が相談役に退き、瀬戸氏が社長に就く人事を発表していた。瀬戸氏がメディアの取材に応じるのは初めて。どういう発言をするかに、注目が集まった。

藤森氏のM&A路線を否定

 瀬戸氏の発言の最大のポイントは、藤森氏のM&A(合併・買収)路線を否定したことだ。藤森氏は米ゼネラル・エレクトリック(GE)仕込みのM&Aを多用して、売上高3兆円の目標を掲げていた。報道によると、藤森路線の核心である海外M&Aについてこう語っている。

 「一般論だかM&Aはそんなに容易なものではない。(リクシルであれば)相手はこちらを知っているが、こちらは相手を知らない不利なゲームだ。勇気、判断、粘り強く相手を調べる体力も必要。藤森さんと比べてどうこう言うのは不遜だが、『自分は慎重にやる』としか言いようがない」(日本経済新聞電子版1月19日付)

 藤森氏とは「違うやり方でやる」と言い切り、藤森氏が掲げた売上高3兆円の目標(16年3月期は1兆8,550万円の見込み)にも「固執しない」という。
 キングメーカーである潮田洋一郎氏が藤森氏の更迭の理由に挙げた、工務店など顧客とのコミュニケーション不足を意識した発言もあった。「まず従業員に会い、工場に行き、お客さんに会い、自分が考えていることが正しいか、誤っていれば方向転換するかを考える」(同)。
 そして、「熱心な素人は常に玄人に勝つ」と言ってのけたという。「素人」は自分を、「玄人」はプロ経営者として評判の藤森氏を指していることは、言うまでもなかろう。藤森氏に対する対抗心は十分だ。

アマゾンを応用して工具の通販を思いつく

 瀬戸欣哉氏は1960年6月25日生まれ。東京都出身。183センチの長身で、学生時代はバスケットボールとボクシングに打ち込んだ。83年、東京大学経済学部卒業後、住友商事(株)に入社。90年、米国住友商事デトロイト支店に赴任。96年に米ダートマス大学にてMBA(経営学修士)を取得した。
 米国でビジネススクールに通っていた時期、書籍などをインターネットで販売するアマゾンの創世記だった。店舗書店では在庫スペースに限りがあるため、店頭には売れ筋商品のみが並ぶ。それを解決するのが、インターネット書籍。売れ筋に関係なく、幅広い品ぞろえで販売することできる。これをどう応用するかを考えた。

 工場や作業現場で使用する材料・工具・消耗品など種類が多いことを考えると、アマゾン方式が使えると思った。これが起業のきっかけとなった。

起業した工具通販会社は年商500億円

 2000年10月、住友商事と米資材会社グレンジャーの合弁会社、住商グレンジャー(株)を立ち上げた。01年社長。05年住友商事を退社。06年商号を(株)MonotaROに変更。風変わりな社名の由来は、工具や補修用品の間接資材を英語ではMaintenance、Repair、Operationというので、その大文字を使った。「物が足りる」という意味と、MRO業界の悪しき習慣である不公平な価格設定という「鬼」を退治する“桃太郎”の意味もこめた。

 06年、東証マザーズに上場(09年、東証一部に指定替え)。09年、住商が全株を売却。グレンジャーが45.5%の株式を持つ親会社になった。12年から会長を務めた。

 専門店経由が普通だった工具の流通に、ネット販売を持ち込んだ。全日本機械工具商連合会の反発はあったが、中小企業を味方に付け、新たな商流をつくった。
 08年には自動車整備工場やガソリンスタンド、自動車販売会社などで使用されるアフターマーケット向き商品もラインアップ。自動車補修ビジネスに一石を投じた。さらに農業・厨房品に商材を広げていった。15年12月期の連結売上高は前期比28%増の575億円、純利益は同71.4%増の43億円の見込みだ。

瀬戸氏は国内に回帰する

 潮田氏が注目したのは、瀬戸氏が親会社の下で、モノタロウを含め11社を起業した実績を持つことだ。日本経済新聞とのインタビュー(15年12月23日付朝刊)で、瀬戸氏を招聘した理由をこう語っている。

 「最も大事なのは起業家精神。モノタロウをゼロから立ち上げ、上場させた。若さとエネルギーに期待する。藤森氏は投資家的な視点が優れていた。藤森氏が打った大局的な布石に対し、瀬戸氏には買収した企業がシナジーを生むような事業の再編や経営を期待する」。

 リクシルにはすでに、創業者がいなくなり、事業をつくり上げていく経営の血が亡くなった。起業家精神を持つ瀬戸氏に、人口減少による市場の縮小が続く国内で新たな事業の芽を見つけ、育て上げる役割を託したわけだ。
 さらに、こうも言っている。「泥臭く現場で問題点を見つけ出し、リーダーシップを発揮してほしい」。藤森氏は華々しい海外M&Aでスター経営者になったが、国内の泥臭い現場に足を運ばなかった。これが工務店の反発を招いた。瀬戸氏には、泥臭い現場を歩けと言っているわけだ。

 取引の多層構造など長年の商慣習が残る点は、住宅関連産業も工具販売も似ている。インターネットやカタログを利用した通信販売システムを使用することで無駄な営業コストを省き、安い価格で工具や消耗品など間接資材の販売を行い、成功を収めた。
 住宅関連産業にも、新しいルールを持ち込みたい。新しいルールをつくった人間が勝てると信じているからだ。しかし、住宅・設備業界は、特約店や問屋など流通業者の影響力が強い。あの豪腕の藤森氏も流通には手をつけなかった。

 瀬戸氏が想定しているのは、最終ユーザーである工務店と直接に結びつく流通革命だろう。中抜きに特約店や問屋が反発するのは、目に見えている。厚い壁に跳ね返されることもあり得る。国内ビジネスに回帰する瀬戸氏だが、潮田洋一郎氏の期待は、何年持つだろうか。

(了)
【森村 和男】

 

(中)

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