2024年12月22日( 日 )

TPP批准は止められる~山田正彦元農相に聞く(1)

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 TPP(環太平洋連携協定)協定をめぐって、開会中の通常国会で審議が本格化する。元農水大臣で、弁護士の山田正彦氏(TPP交渉差し止め・違憲訴訟の会幹事長)に、TPP協定案の問題点や、加盟12カ国の批准の見通しなどについて話をうかがった。

(聞き手・山本 弘之)

関税収入4,000億円も減収

 ――2015年10月のアトランタ閣僚会議から帰国直後に続いて、あらためてTPP協定案の問題点をお聞きします。

山田 正彦 氏<

山田 正彦 氏

 山田正彦氏(以下、山田) (日本にとって)TPPにメリットがあるのかがまず問われている。農家も、国民、消費者も騙されている。「牛肉が安くなる、豚肉が安くなる」と言われているが、本当にそうなのだろうか。消費者利益を検討する際に考えておかないといけないのは、その分については国家の税収が減ることだ。私の現職時代にTPPで毎週、財務省、外務省、農水省などと勉強会をやっていたが、TPPで税収がいくら減るかと聞いたら、財務省は農産物だけで関税収入が年4,000億円減ると答えた。消費税の食料品の軽減税率で対象が増加した約6,000億円の財源問題が先送りされ大問題になっているが、この農産物の関税収入が減る4,000億円について、政府は誰も触れない。それは誰が負担するか。結局、消費者である国民が負担することになる。牛・豚肉が安くなった分、国民が税金(消費税も含む)でそれを賄うことになる。

 農民にしても、TPP農業対策費が約3,200億円(2015年補正予算)だが、TPPでなくなる制度で、牛肉についての関税を直接生産者に支払いしている畜産振興基金だけで約1,000億円。砂糖では、直接砂糖生産農家に日本の輸入業者などから糖価調整金として徴収し、支援していた1,000億円がなくなることになる。さらに小麦は国家貿易制度は暫く維持するものの、マークアップとして小麦農家への直接支援金600億円がなくなる。畜産農家に、砂糖農家に、小麦農家に直接払っていた分は、この3つだけで2,600億円にのぼる。

農家への補助金がISD条項で訴えられる

 山田 そして農業への補助金そのものが、ISD条項の対象になることが今度の協定文で明らかになった。農業への補助金は除外されておらず、例外事項ではない。TPPは内国民待遇を定め、相手国の企業らを自国民と同じように公平で平等に扱わないといけないとされている。米国のモンサントやデュポンなどの穀物メジャー、アグリビジネス大企業が「我々にも補助金を出せ、そうでなければやめろ。平等にしろ」と求めることになる。応じなければ、ISD条項で日本政府が訴えられる。
 日本政府は、補助金がISD条項に対象にならないように留保していると言うけれど、留保は意味がない。除外ではない。ISD条項の除外になっているのは、オーストラリア、マレーシアの主張で除外された、たばこだけだ。

 ――ISD条項は、米国企業が間違いなく勝つ仕組みですね。農業の補助金はどうなりますか。

 山田 たとえば、米国が日本に農産物を輸出したいが、日本の生産者が補助金をもらっていて、価格安定制度があって、8割9割の差額関税制度をやるということは、彼らにとっては、輸出しても、日本の牛肉豚肉が売れて、自分たちの農産物が売れないということになる。米国の農業生産の80%は、モンサント、カーギル、デュポンなど4社のアグリビジネス大企業で占められている。米国も補助金をジャブジャブ出している。米でも目標価格を設定し市場価格との差額を助成し、トウモロコシでも1エーカーあたり28ドルある。「米国も農業者に補助金出しているから日本もいいじゃないか」という話は通らない。

 それならば、またTPP協定で明らかにしていなければならなかった。企業が政府を訴えるのだから、日本の生産法人や農業法人が米国政府を訴えることができるかというと、1回のISD条項の裁判に6億円かかる。日本の農業生産企業でそのような訴えを起こすことは現実にはできない。米国のカーギルやモンサントにとっては、得られる利益からすれば、6億円の裁判費用はなんでもない。
 結局、日本は政府が補助金も農家に出せなくなることになる。

 差額関税制度など直接の補助金だけでも約2,600億円あるのに、それがなくなって、関税もなくなって、TPP対策費として農家に補填します、助成しますといって済む話ではない。

(つづく)
【取材・文:山本 弘之】

▼関連リンク
・TPP交渉差止・違憲訴訟の会
・TPP大筋合意アトランタ現地報告~山田正彦元農水相

<プロフィール>
yamada_pr山田 正彦(やまだ・まさひこ)
元農林水産大臣。弁護士。TPP交渉差止・違憲訴訟の会幹事長。1942年、長崎県五島生まれ。早稲田大学卒業。牧場経営などを経て、1993年の初当選以来衆院議員5期。農業者戸別所得補償制度実現に尽力。『輸入食品に日本は潰される』(青萠堂)、『小説 日米食糧戦争 日本が飢える日』(講談社)、『TPP秘密交渉の正体』(竹書房新書)など著書多数。

 
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