2016年国際政治展望~公式声明・報道の裏側(後)
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国際政治経済学者・参議院議員 浜田和幸氏
中国は、日本にとって最大級の貿易・通商相手国である
――前回、中国人は、富裕層も特に若者は「過去の戦争でどんな経緯があったにせよ、ある意味割り切って」行動できるようになってきたと言う話がありました。日本人はどうなのでしょうか。
浜田 その面だけを考えると、日本人は割り切り方が下手というか、全くできていません。日本人の方から胸襟を開くことに強い抵抗感を覚えています。その象徴が安倍総理と言えます。安倍総理はよく「対話のドアは開けてある」と言われるのですが、「来れば会ってもいいですよ」と言うのは、大人の外交姿勢ではありません。自分から、相手のドアを開けて一歩踏み出すことができなければ、政治家、まして最高指導者としては相応しくありません。中国は日本にとって最大級の貿易・通商相手国だからです。
昨年11月に北京で、アメリカのオバマ大統領と中国の習近平主席は2日間で計9時間に亘り首脳会談をしました。しかし、同時期の安倍総理と習近平主席との首脳会談はわずか25分でした。
中国には14億人(~15億人)の国民がいます。世界人口の約4人に1人が中国人になるのです。アメリカでも、イスラム系が増えていますが、中国系の方が圧倒的に多いのです。そのことをオバマ大統領はきちんと認識しており、好き嫌いは別にして、しっかりと政治家として範を示しました。中国は、全土が空気、水、土壌の汚染の3重苦である
――中国とは政治と並行して経済対話を進めていくことが必要と思われます。先生は、どの分野からが一番効果的だと思われますか。
浜田 それは何と言っても環境問題です。昨年、5月に自民党の二階俊博総務会長が経済人3,000人を引率して中国訪問をした同時期に、私も中国におりました。主に環境問題を中心に、中国政府、研究者、業界関係者などと意見の交換をしました。
今、中国は全土が大気汚染(空気)、水源地の枯渇(水)、国土(土壌)汚染の三重苦の状態にあります。特に今のような冬場には石油ストーブによる煤煙や石炭火力発電所から輩出される公害問題は、日本はもとより、遠くアメリカにまで及んでいます。
「相手が何に一番困っているのか」をしっかり認識することによって、実質的な対話が生まれてきます。北京では、昨年も今年も正月の日の出が拝めていません。このPM2.5は、北京に留まらず中国各地に拡がりを見せています。このままでは、今の政権に対する不平不満が一気に爆発してもおかしくありません。
環境問題で、技術的、法律的に1番進んでいるのは日本
浜田 では、この環境問題解決に関して、どの国が世界で一番、技術的にも、法律的にも進んでいるかと言えば、それは日本です。環境汚染、公害問題はアメリカも、日本(水俣病、四日市喘息など)などでも、先進国が皆、経済発展途上で経験してきたことです。そして、紆余、曲折して克服してきました。そのノウハウを中国に提供、日本と中国が協力することで、これから経済発展を遂げようとする国々も利用できる、公害対策ビジネスモデルができます。
すでに、東レなどは日本の最先端技術を使い、中国の約33カ所の地域で浄水プラント施設計画を進め(市場規模は66億元(約1,200億円)と言われる)、並行して、特に水道水の水質が悪い現地事情に合せて、浄水能力を高めた家庭用浄水器(将来的な市場規模は、1,000億元(約1兆8,000億円)と言われる)も展開中です。
公式声明・発表だけを頼りにしていると判断を誤ります
――最後に、読者に国際政治の見方のヒントを教えていただけますか。
浜田 国際政治を考える場合、顕在化している公式声明・報道だけを頼りにしていると大きく判断を誤る可能性があります。大事なのは、今世界で「人の流れや、お金の流れがどのようになっているのか」を理解することです。特に日本の場合は、情報がアメリカというフィルター(アメリカが正義)を通して入ってくるので極めて一面的な見方になってしまう傾向があります。
オバマ政権は、アメリカの軍産複合体の利益の為に動く
そのアメリカのオバマ政権ですが、あくまでもアメリカの軍産複合体の利益のみを考えて行動しています。とても単純な構図です。中国が危ない、ロシアが危ない、北朝鮮が危ないと言って日本の防衛予算を増やさせ(3年連続の増額で遂に過去最高の約5兆円に)200億も、300億もするオスプレイ(アメリカでは事故が多発)やパトリオットミサイル(イランで実験した結果の命中率はわずか2%)などの兵器を買わされています。まったく安全の担保されない類のもの買うのに、莫大な日本国民の税金が使われているのです。
直接対話する外交を展開する方が、国民のためになる筈
私は、同じ時間とエネルギーをかけるのであれば、中国に、韓国に、ロシアに、北朝鮮に出かけて行って、直接対話する外交を展開する方が、国民のためになると考えています。
アメリカは日本にとって大事な国です。だからと言って、深い考察もせずに、アメリカと一蓮托生のように、国際社会で振る舞うのは、日本の政治家の正しい姿ではありません。――本日は、お忙しいなか、色々と貴重なお話をお聞かせ頂きありがとうございました。
(了)
【金木 亮憲】<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
参議院議員。国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員を歴任。参議院では、外交防衛、経済産業、内閣の各委員会に所属し、ODA特別委員会や憲法調査会でも主導的な役割を果たしている。関連キーワード
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