2024年12月12日( 木 )

中島淳一「古典に学ぶ・乱世を生き抜く智恵」(17)

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劇団エーテル主宰・画家 中島淳一氏

 己の創作領域のみを棲家とし、その域を超えた活動には慎重になりがちな芸術家が多いなか、福岡市在住の国際的アーティスト、中島淳一氏は異色の存在である。国際的な画家として高い評価を得るだけでなく、ひとり芝居に代表される演劇、執筆活動、教育機関での講演活動などでも幅広く活躍している。
 弊社発行の経営情報誌IBでは、芸術家でありながら経営者としての手腕を発揮する中島氏のエッセイを永年「マックス経営塾」のなかで掲載してきた。膨大な読書量と深い思索によって生み出される感性豊かな言葉の数々をここに紹介していく。

ブルトン、エリュアール「処女懐胎」に学ぶ~奇蹟を否認するために奇蹟を行なえ~

 フランスの詩人・作家ブルトン(1896~1966)は1924年、「シュルレアリスム宣言」で文字通りシュルレアリスムの指導者となる。
 シュルレアリスム(超現実主義)とは、不合理で非現実的な意識下の世界を探求し、既成の思想、哲学、美学、倫理とは無関係に心の奥底に潜む衝動を表現することを目的とした。
 もはや、芸術家は単なる芸術家ではない。自分自身が霊感を与える主体でなければならない。作品を創作するだけではなく、識者であり、予言者であり、人間を世界を変容させる魔術師でなくてはならない。
 この主張は文学や美術の分野のみならず、多方面にわたり世界中に影響を与えた。「処女懐胎」はこの運動の最も盛んな時代にブルトンがエリュアールと試みた自動記述の実験記録作品である。
 読む者の心を揺さぶり、読み進むにつれ、まったく見知らぬ自分自身が目覚めていく感覚を与える永遠の名著だ。

●この砂漠は偽物だ。私が彫りつける影から、役に立たぬ秘密といっしょに様々な色彩が現れてくる。

中島 淳一 氏 中島 淳一 氏

 物事が上手くいかなかったり、思い通りにならないとき、まるで夢から醒めたように、この世界が不毛の砂漠であることに気付く。
 目の前の障壁を打破すべく、問題の根本原因を探ろうとすればするほど心は足場を失い、奈落の底に落ちていく。
 最も権威ある宗教書や哲学書を何万冊読もうとも何の答えも得られないという答えしか残らない。
 言葉と自我を引き離す無限の距離が織り成す透明なタピストリーを見据え、霊感を得ない限り、虚無感の餌食になるしかない。
 天使の装いをした悪魔に手を握られても呼吸と血液を支配させてはならないのだ。
 己の疼くような欲望こそが全能であり、その欲望を実現することはこの地上では善であることを知れ。
 心の整理がついたと思ったら、とんでもない。退屈過ぎて死ぬしかない。
 もう一度掻き乱せ。
 迷いと絶望は必然であり、それを知れば、偶然の妙を楽しめる。この世は矛盾と不条理の楽園なのだ。
 打つ手をなくし、途方にくれたら、眠るしかない。浅い眠りは悪夢をもたらし、深い眠りは死のような平安をもたらす。そこからしか魂は回復しない。
 理性という武具を燃やし、その灰を美しい肉体に塗り込んで闘え。
 たまには、狂気の沙汰だと人々に揶揄されるほどのことをやってみろ。
 未来の音階の感覚をつかみ、考古学的欲情でぶつかれ。あとは出たとこ勝負だ。
 個人的無意識を超え、民族的無意識を超え、宇宙的無意識の欲情に至れば、名もなき、未知なる予言者という自分自身に遭遇するだろう。
 宇宙は神々という名の人間の魂の遊戯場なのだ。地上は難行苦行の場ではなく、ましてや修行の場でもない。究極の楽園なのである。
 疲れたら、休み、回復したらまたおもいっきり遊ぶ。人生は旅路ではなく、炎であることを悟れば、あっという間に壮麗な己の人生を味わうだろう。
 死ぬ前になすべきこと、それは奇蹟を否認するために奇蹟を行なうことである。
(●※ 自動記述的超意訳)


<お問い合せ>
劇団エーテル
TEL:092-883-8249
FAX:092⁻882⁻3943
URL:http://junichi-n.jp/

<プロフィール>
nakasima中島 淳一(なかしま・じゅんいち)
 1952年、佐賀県唐津市出身。75~76年、米国ベイラー大学留学中に、英詩を書き、絵を描き始める。ホアン・ミロ国際コンクール、ル・サロン展などに入選。日仏現代美術展クリティック賞(82年)。ビブリオティック・デ・ザール賞(83年)。スペイン美術賞展優秀賞(83年)。パリ・マレ芸術文化褒賞(97年)。カンヌ国際栄誉グランプリ銀賞(2010年)。国際芸術大賞(イタリア・ベネチア)展国際金賞(10、11年)、国際特別賞(12年)など受賞多数。
 詩集「愁夢」、「ガラスの海」、英詩集「ALPHA and OMEGA」、小説「木曜日の静かな接吻」「卑弥呼」、エッセイ集「夢は本当の自分に出会う日の未来の記憶である」がある。
 86年より脚本・演出・主演の一人演劇を上演。企業をはじめ中・高校、大学での各種講演でも活躍している。福岡市在住。

 
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