【世界遺産】「長崎の教会群」がダメになった理由(前)
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これまで日本が世界遺産登録へ推薦したなかで、その価値に疑義を持たれた前例はいくつかある。しかし、それらは結果として国連教育科学文化機関(ユネスコ)世界遺産委員会によって登録に至っており、政府が「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」の推薦を取り下げる方針を示したことは、異例の事態だ。2007年の暫定リスト掲載から10年近くにわたり登録を目指してきた長崎県や地元経済界、県民らにとっては「政府の裏切り」にも映るだろう。県は18年に再挑戦する意向を示しているものの、現状で政府が推薦する保証はまったくない。
価値が認められたのは「禁教期」の構成資産
世界遺産の目的は、遺跡や自然などを保護することにある。そのため、これらが人類にとって「普遍的な価値」を持つものであると認定されなければならない。評価するのは、ユネスコの諮問機関である非政府組織(NGO)の国際記念物遺跡会議(イコモス)だ。世界遺産条約が定める登録手続きでは、イコモスは条約締結国から推薦された物件を審査し、その可否をユネスコに勧告する。その内容は登録、情報照会、登録延期、不登録の4つ。イコモスの勧告は、ユネスコ世界遺産委員会が登録の可否を判断する基準とされ、その影響力は絶大だ。
ユネスコは審査の透明性を高めるため、イコモスが推薦国に中間報告するよう手続きを変更した。これが教会群で初めて適用され、イコモスは日本政府に登録延期になる見通しを伝えたという。登録延期の勧告を受けても世界遺産に登録された「石見銀山」の例はあるが、イコモスは教会群について構成資産が価値を十分に説明していないと厳しく指摘しており、今年7月の委員会で登録されない可能性は高い。その観点から言えば、政府の判断が推薦取り下げに動いたのは妥当であると言えるだろう。
教会群の推薦書は日本におけるキリスト教の歴史を「伝播・普及」「禁教期」「復活」の3段階に分け、関係者らは「このストーリーはキリスト教圏、とくに欧州の人々には理解されるはず」と胸を張った。教会はすべて復活に含まれる。しかしイコモスは、教会群の価値は禁教期にあるとみた。推薦書が「禁教期」の構成資産とした4件は、いずれも潜伏キリシタンの聖地か集落。2月7日付の長崎新聞は「原城跡」「大浦天主堂と関連施設」も「禁教期」に含まれるとして、残る8件が見直しか除外の対象になる可能性を報じた。これは、教会群のコンセプトそのものを揺るがす事態だ。
「復活」の資産になっている教会は、禁教令が廃止された後の明治、大正時代に建設され、すべて禁教期に潜伏キリシタンが暮らした集落にある。長崎新聞の記事で関係者が「禁教期から歴史的につながっている」と語ったように、禁教期を説明する資産と考えることもできなくはない。しかしイコモスは、説明不足と判断した。何としてもこれらの教会を構成資産に残したい県は、難しい判断を迫られている。イコモスとアドバイザー契約を結んで推薦書を見直すとしているが、「禁教期」に重点を置いたコンセプトにつくり直せば、明治以降の教会を構成資産から除外しなければならなくなるだろう。
(つづく)
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