【世界遺産】「長崎の教会群」がダメになった理由(後)
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期待の裏返しで高まる国への不信感
県が教会を残したい理由は、これらが現在過疎高齢化に苦しむ離島や半島部に立地しているためだ。衰退が進む地域の活性化の起爆剤として、教会群の世界遺産登録は期待が大きい。実際、暫定リストに掲載された直後から、多くの人が教会を訪れるようになっている。世界遺産に登録されれば国内のみならず、国外からの観光客も増えるだろう。地元のシンクタンクは登録初年度の経済効果を39億円から100億円と試算した。すでに長崎県内では端島炭坑(軍艦島)などが「明治日本の産業革命遺産」の構成資産として世界遺産に登録され、その経済効果も24億円から101億円とされている。2つの“世界遺産”が長崎県にもたらすカネは絶大だ。
それだけに、今回の推薦取り下げは長崎県民に大きな衝撃であり、国に対する不信感はさらに高まるだろう。そもそも県は、信徒発見から150年目に当たる昨年の登録を目指してきた経緯がある。構成資産は史跡か重要文化財に指定されていなければならないため、これまで日本がユネスコに推薦する案件は、文化庁と文化審議会によって決定されてきた。しかし一昨年、稼働中の資産に対する条件を緩和し、産業遺産について内閣官房が設置する有識者会議によって候補を選定すると閣議決定されたのである。15年に教会群を推薦しようとしていた文化庁としても、内閣官房に横取りされた格好となった。こうした内閣のやり方は、世界遺産の理念から外れていると言わざるを得ず、ネット上にも「安倍首相が選挙区のある山口県に世界遺産を持ってきたからではないか」との噂が広まった。
長崎経済浮揚のために甘えは許されない
そもそも世界遺産とは何なのか―ということが、今回の事態の本質であろう。イコモスも教会群の価値自体は認めている。しかし、構成資産の内容と推薦書のコンセプトに整合性がみられないと指摘しているのだ。現在の構成資産をそのまま残すとすれば、コンセプトそのものを作り直さなければならないし、あくまでコンセプトにこだわるなら構成資産の除外と見直しは避けられない。イコモスが禁教期を重視するのは、ヨーロッパにおいても消滅したと信じられていた日本のキリスト教信者が約350年にわたって信仰を守り続けてきたことが奇跡とされているからだろう。徳川幕府から弾圧されてきた潜伏キリシタンがキリスト教に関係する建造物を残せなかったのは当然で、明治以降の教会は信仰の自由を得た信者の喜びであり、禁教期の間接的証明になるという地元マスコミの論調は理解できるが、それでイコモスを納得させることができなかったという現実は受け入れるべきだ。
県は経済浮揚策として、教会群の世界遺産登録と新幹線建設の推進に力を入れてきた。しかし新幹線は、新型車両の研究開発が難航しているため、開業が予定より最低2年遅れることが明らかになっている。教会群の推薦取り下げは、そのダメージに追い打ちを掛けた。ここで気落ちせずに、踏ん張り切れるか。
天領時代以来、長崎の人は「お上が何とかしてくれるだろう」とのんびり構える気質だと言われている。もはやそのような甘えは許されない。再度教会群の世界遺産登録を目指す動きは、長崎の未来を占う重要な試金石となるだろう。(了)
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