日本伝統文化を凌駕するマンガ・アニメの人気!(1)
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過去において、「バンド・デシネ」(BD)と呼ばれる独自のコミック文化を持つフランスでは、日本マンガの進出は必ずしも歓迎されるものではなかった。しかし現在では、フランスにおける新刊コミックの4割強(約1,500点)は「MANGA」(日本漫画の翻訳版)で占められている。一方、2015年にパリで開催された、第16回「ジャパンエキスポ」(来場者約25万人)においても、マンガ・アニメの人気は絶大であった。このことは、若者世代を中心に、フランス人が日本を知る、日本語を勉強する契機として、「日本伝統文化」(「茶道」「華道」「武道」「書道」など)を「マンガ・アニメ」がすでに凌駕したことを意味する。フランスは世界有数の「マンガ」大国である。
来日中のフランスにおける「手塚治虫」研究の第1人者、グザヴィエ・エベール博士に聞いた。同席いただいたのは、フランスの新進気鋭の若手マンガ家、セドリック・チャオ氏と
元トンカム社(TONKAM・パリの老舗マンガ出版社)のコーディネーターであり、日仏のマンガ事情に精通した鵜野孝紀氏(日仏通訳・翻訳・漫画エージェント)である。マンガ研究家・翻訳 グザヴィエ・エベール氏
フランスで1つのジャンルとして確立した
――フランスは世界のなかでも、有数な日本マンガ先進国と聞いています。現在のフランスにおけるマンガ・アニメ事情をどのようにご覧になっていますか。
グザヴィエ・エベール氏(以下、グザヴィエ) 現在のフランスにおいては、2005年、06年頃をピークに、日本のマンガ・アニメは、市民にきちんと受け入れられていると思います。
国家政策として、1974年には国立マンガ映像センター(CNBDI)が設立され、そこではマンガ祭を行っています。また、04年にはフランスの国立出版協会が「MANGA」というジャンルを立てました。一般的なフランスの書店に行けば、日本の漫画はちゃんと置かれています。見方にもよると思いますが、日本の「マンガ・アニメ」は、フランスで1つのジャンルを確立して、市民に受け入れられたと言えると思います。2000年頃からは、マンガ・アニメおよび関連商品の売上も順調に推移しているのではないかと考えています。
若い世代では、100%近い視聴率を獲得した
――少し意外でした。日本の「マンガ・アニメ」は、たしかに世界ですごく人気があると言われています。しかし、ビジネス的には、海外では文化などの違いによって、必ずしも、上手くいっているわけではないという漠然としたイメージがありました。2000年以前はどうだったのでしょうか。
グザヴィエ フランスにおけるマンガ・アニメの歴史は、70年代、80年代まで遡ることができます。私が子どもの頃は、日本のTVアニメをよく見ていました。当時一番人気があったのは、フランスの番組名は『ゴルドラック』で、日本のオリジナル作品のタイトルは『UFOロボ グレンダイザー』です。このマジンガーシリーズの放映は1978年7月に始まり、熱狂的な人気で、数カ月で、若い世代においては、100%近い視聴率を獲得したと言われています。
『ゴルドラック』が転機となり、日本のアニメがフランスのTV局で放映されるようになっていきます。大好評のうちに翌79年1月18日に放映を終了した「ゴルドラック」は、ファンたちの要望が放送局に殺到したことにより、翌週より再び放映が行われています。また本家の日本においてよりも、玩具アイテムが山のように出て商業的成功も収めました。
日本アニメのことにそんなに詳しくなかった
――しかし、その後90年代の一時期、日本アニメに不遇の時期があったとも聞いています。
鵜野孝紀氏(以下、鵜野) その点については、私の方から補足説明させていただきます。1980年代中盤から1990年にかけて日本のアニメが大量にTV放映されることになります。しかし、フランスの制作会社は、日本のアニメのことをそんなに詳しく知らなかったので、『北斗の拳』などの日本の青少年向けアニメも、子ども向けに放映されてしまったのです。そのため、激しいアクションシーンや暴力、残酷シーンなどが問題になり、非難を受けることもありました。
もともと、フランスでアニメとはお母さんが忙しいときに子どもに見せておく、ディズニーなどに代表される「子ども向け」としか考えられていなかったからです。90年代の一時期は、ある意味日本アニメにとっては不遇の時期になりますが、アニメが見られなくなったアニメファンのエネルギーは、そのアニメの原作であるマンガへ向かうことになります。(つづく)
【金木 亮憲】
【注】バンド・デシネ(BD):19世紀前半に始まったと言われる、フランス・ベルギーを中心としたフランス語圏の伝統的コミック。A4判カラー48ページを基本とし、通常1シリーズが3巻~10巻。想定読者は青少年の男性とされている。アート的色彩が強く、世界の漫画や芸術にも影響を与えている。日本でも知られている著名な作品として『タンタンの冒険旅行』(エルジェ、1929年‐1976年)などがある。<プロフィール>
グザヴィエ・エベール(Xavier Hebert)
1966年フランス・ノルマンディー生まれ。パリ第7大学大学院(Denis Diderot)東洋言語文化学部日本語科博士号前期課程研究免状(DEA)取得「日本の漫画」(1997年)、千葉大学大学院社会文化研究科都市研究専攻
博士号取得「漫画の物語理論」(2002年)
パリのマンガ専門学校Eurasiam教員(日本マンガの分析及び実践を指導)。日本マンガに関する論文・寄稿多数(手塚治虫研究、漫画における視覚的物語手法)。日本マンガの仏語翻訳(手塚治虫、黒田硫黄、五十嵐大介、高浜寛など)。グレナ(GRENA-ソルボンヌ大学・マンガ研究者グループ)会員。関連記事
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