2024年11月17日( 日 )

日本伝統文化を凌駕するマンガ・アニメの人気!(2)

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マンガ研究家・翻訳 グザヴィエ・エベール氏

『AKIRA』がマンガ翻訳出版の契機になった

 ――前回、90年代の一時期にアニメは不遇の時を迎え、フランスの日本アニメのファンのエネルギーはその原作であるマンガに向かったという話を聞きました。

 グザヴィエ 90年代前半にはマンガブームが訪れ、フランスでも多くの若者が自ら創作マンガの制作を始めるようになります。アマチュア作品を発表する場として、同人誌活動もこのときに目覚ましい発展をしています。

ジャパンエキスポパリ<

パリで開催されたジャパンエキスポ

 90年には、大手バンド・デシネ(BD)出版のグレナ社が、アメリカでも爆発的に売れた大友克洋の『AKIRA』で先鞭をつけ、鳥山明の『ドラゴンボール』(93年)、高橋留美子の『らんま1/2』(94年)など日本の人気テレビアニメの原作を刊行開始しています。さらに、アニメとは直接関係のないさまざまな日本マンガの作品の翻訳出版も行われるようになっていきます。士郎正宗『アップルシード』と『オリオン』(94年)、池上遼一の『クライングフリーマン』(95年)、鳥山明の『Dr.スランプ』(95年)、武内直子の『美少女戦士セーラームーン』などが刊行されています。とくに『AKIRA』は、質の高い素晴らしい作品だったので、グレナ社以外のフランスの出版社でも、日本マンガを出版しようとする動きが起こっています。

 一方、約10年の不遇の時期を経て、日本アニメの放映が本格的に再開されていくのは、1999年にアニメ『ポケモン』がTV放映されたことがきっかけとなっています。

15年前には、すでに日本伝統文化を追い抜いた

 ――これまでのお話をおうかがいしていると、フランスはかなり「マンガ大国」のような気がしてきました。少し角度を変えてお聞きします。従来、フランス人ほかヨーロッパ人が抱く日本のイメージは、日本伝統文化(「茶道」「華道」「武道」「書道」など)だったと思います。「日本伝統文化」を「マンガ・アニメ」が凌駕したと考えてよろしいのでしょうか。

 グザヴィエ それは、世代によっても大きく変わるので難しい問題です。日本に興味を持っている人は、どちらかの2者択一でなく、日本伝統文化もマンガ・アニメも比較することなく、両方ともに強い関心があると思います。私自身も柔道、空手などには興味があります。
ただし、従来、日本伝統文化に興味を持っていた人数はそんなに多くなく、また当時の日本伝統文化に触れられるのは、ごく限られた階層の人だったと思います。
その点では、世代によるとはいえ、人数的には、「マンガ・アニメ」は、「日本伝統文化」を完全に追い抜きました、私の感覚では、すでに15年ぐらい前にはそうなっていたと思います。今現在、日本を知る、日本語を学習する動機は、圧倒的にマンガ・アニメになっていることは間違いありません。

マンガ・アニメは「子どもだけのものではない」

 ――グザヴィエさんのような研究者やマンガ・アニメファンではない、ごく一般のフランス人の日本マンガ・アニメ感はどうですか。

 グザヴィエ 私が驚いているのは、日本にほとんど関心がなくても、マンガ・アニメが好きで、読み、見るフランス人の若者が増えてきたことです。彼らは日本の文化とか日本そのものに関心がなく、もちろん日本語はまったくわかりません。しかし、『NARUTO』や『ONE PIECE』(翻訳版)などをごく普通に読んでいます。

 もちろん、50歳以上で、小さいときからバンド・デシネ(BD)を読み続けてきたフランス人には、日本のマンガ・アニメはある意味違和感があるかもしれません。しかし、先ほど、「フランスでは、アニメ(その原作のマンガを含む)とはお母さんが忙しいときに子どもに見せておく、ディズニーなどに代表される子ども向けである」というお話がありましたが、そこにも変化が現れてきているのです。
一般的には、フランス人はある年齢(25歳~30歳)になると、マンガ・アニメは卒業します。しかし、今日本マンガ・アニメは「子どもだけのものではない」と考える若者が増えてきています。つまり、マンガ・アニメを読む・見ることに、世代間の断絶がなくなりつつあるのです。

「萌え」の文化は再生産されていないと考える

 ――それはすごいことですね。ところで、フランスでは、いわゆる「アキバカルチャーに」代表される「オタク」や「萌え」については、どう受け止められていますか。

 グザヴィエ 「オタク」のようなフランス人は一定数いるかも知れませんが、非常に少ないのではと思っています。「萌え」に関心のあるフランス人は、ほとんどいないと言えるかもしれません。私はそのような現象を自分では見たことはありません。フランスにおいては、萌えの文化は再生産されていないと考えています。

(つづく)
【金木 亮憲】

<プロフィール>
xhグザヴィエ・エベール(Xavier Hebert)
1966年フランス・ノルマンディー生まれ。パリ第7大学大学院(Denis Diderot)東洋言語文化学部日本語科博士号前期課程研究免状(DEA)取得「日本の漫画」(1997年)、千葉大学大学院社会文化研究科都市研究専攻
博士号取得「漫画の物語理論」(2002年)
パリのマンガ専門学校Eurasiam教員(日本マンガの分析及び実践を指導)。日本マンガに関する論文・寄稿多数(手塚治虫研究、漫画における視覚的物語手法)。日本マンガの仏語翻訳(手塚治虫、黒田硫黄、五十嵐大介、高浜寛など)。グレナ(GRENA-ソルボンヌ大学・マンガ研究者グループ)会員。

 
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