日本伝統文化を凌駕するマンガ・アニメの人気!(4)
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マンガ研究家・翻訳 グザヴィエ・エベール氏
フランス流の発想から抜け出ていない学生が多い
――今、グザヴィエさんは研究活動の傍ら、セドリックさんはマンガ家活動の傍ら、パリのマンガ学校で教鞭をとられています。生徒さんの様子はいかがですか。日本に対する関心とかはいかがですか。
グザヴィエ パリには、マンガ専門学校が約3つあります。年齢構成はそれぞれの学校で違うのですが、私とセドリックが教えている学校では、高校卒業以上の生徒が対象で、基本的にプロのマンガ家(イラストレイターなども)になる人間を養成しています。プロ志望なので、皆かなり熱心に、真剣に学習しています。彼らの多くは、日本マンガを子どもの頃から読んでおり、マンガが好きになって、マンガ家になりたいと考えています。
セドリック・チャオ氏(以下、セドリック) 彼らは皆マンガ家になることを夢見て入学してきます。しかし、日本のマンガ・アニメ作家になることがどれほど大変であるかは、理解できていません。入学後、厳しい現実を知ってプロになることがそんなに簡単でないことも分かってきます。能力はもちろんですが、多くの勉強、修行を重ねていく必要があるからです。
また、フランスの学生は日本のマンガをたくさん読んでいると言っても、基本はフランス流の発想から抜け出ていない学生が多いです。たとえば、バンド・デシネ(BD)のように、絵をアートのように大切にし過ぎるため、ストーリー(物語性)が疎かになりがちです。もちろん絵は大切ですが、それ以上に、日本マンガでは、物語性を大切にしなければいけません。そこがほとんどわかっていません。そのため、私はマンガばかり読まずに、映画や芝居を見て本を読むことをアドバイスしています。自分が日本マンガで感じたと同じものを伝える
――なるほど、いいアドバイスですね。ところで、セドリックさんの作品はすべてフランス語で書かれています。日本マンガとは、どのように関係してくるのですか。
セドリック 私自身は子どもの頃から日本マンガを見て育ちました、その日本マンガで感じたもの(感動、衝撃、神秘など)と同じものを、今度は自分のマンガで表現したいと考えています、読者が自分のマンガ作品を読んだとき、1本の長編映画を見たような感じになってくれることを望んでいます。フランスの典型的なバンド・デシネ(BD)のようにアート(絵など)を重視するのでなく、物語性を重視したいからです。
その時点で日本の出版社はもっと先にいっている
――時間になりました。最後に、本日のテーマに関して、皆さんから一言いただけますか。まず、セドリックさんどうぞ。
セドリック 日本のアニメのすごいところは、フランスのバンド・デシネ(BD)と比べると、「次はどうなるのだろう」というワクワク感が随所にあることだと思います。
基本的に、フランス人が日本マンガを描くときは、すでにフランスにある日本のマンガを模倣してしまう傾向があります。しかし、フランスの出版社が日本で成功を収めた「NARUTO」などと同じ傾向の作品を作ろうとした場合には、注意が必要になります。それは、その時点で日本の出版社はさらに先のものの制作に着手しているからです。日本の認知度のハードルを下げることができた
――なるほど、とても深いお話しですね。次に鵜野さんはいかがですか。鵜野さんはパリの老舗マンガ出版社であるトンカム(TONKAM)社のコーディネーターをされていましたね。
鵜野 私はフランスのマンガ・アニメなどのマーケットを、日本人としてどう見るかという立場でお話します。たしかに、フランスは世界有数の「マンガ」大国であることは間違いありません。そして、何よりも、日本のマンガ・アニメがフランスで市民権を得たことは、フランスにおける日本の認知度のハードルを下げることができて、とても好ましいことです。
しかし、「フランスで日本のマンガが大いに受けている」と言っても、それはいわゆる少年漫画に過ぎないことも忘れてはいけません。15歳から25歳までの年齢層に向けてのアクション・アドベンチャーものが中心です。今のところこの年代だけが、フランスにおける日本マンガ・アニメ消費者になっています。
乱暴な言い方をしますと、日本には素晴らしい大人向けマンガ・アニメがあるのに、フランスの消費者は少年マンガだけで、勝手に卒業してしまうのです。それ以上は、バンド・デシネ(BD)に向かうかどうかということになっています。しかし、最近フランスにおいて、日本のマンガ・アニメで青年ものが伸びてきていることは希望の光でもあります。フランスの読者がどう成長していくべきかを考える
セドリック 今のお話しですが、やはりフランスの多くの出版社は現時点で一番何が売れるかという観点で動いています。本来は、フランスの読者がどう成長していくか、いくべきかという観点で考えるべきだと思います。日本マンガが入ってくる前も、バンド・デシネ(BD)市場は小さな子ども向けの作品と、大人向けの作品が主で、思春期の若者向け作品がありませんでした。つまり、そのぽっかり空いていた市場に、思春期の問題を扱った日本マンガ・アニメが市民権を得たのです。今もその構図は変わっていません。しかし、私のマンガ作品は12歳以上で、希望としては30歳後半までの年齢の人には読んで欲しいと思っています。
「日本はマンガ・アニメの国である」ことを実感した
――では、最後にグラヴィエさん、一言お願いできますか。
グラヴィエ 7年ぶりに日本に来て、改めて「日本はマンガ・アニメの国である」ことを実感しました。街を歩いても、乗り物に乗っても、レストランなどに入っても、至るところでその考え方が生きていることを感じています。
――皆さん、本日は過密スケジュールのなか、お集まりいただきありがとうございました。
(了)
【金木 亮憲】<プロフィール>
グザヴィエ・エベール(Xavier Hebert)
1966年フランス・ノルマンディー生まれ。パリ第7大学大学院(Denis Diderot)東洋言語文化学部日本語科博士号前期課程研究免状(DEA)取得「日本の漫画」(1997年)、千葉大学大学院社会文化研究科都市研究専攻
博士号取得「漫画の物語理論」(2002年)
パリのマンガ専門学校Eurasiam教員(日本マンガの分析及び実践を指導)。日本マンガに関する論文・寄稿多数(手塚治虫研究、漫画における視覚的物語手法)。日本マンガの仏語翻訳(手塚治虫、黒田硫黄、五十嵐大介、高浜寛など)。グレナ(GRENA-ソルボンヌ大学・マンガ研究者グループ)会員。関連記事
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