ドナルド・トランプ候補はなぜ「強い」のか(3)
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副島国家戦略研究所(SNSI)研究員 中田 安彦
これまでの話を振り返ると、トランプ候補は、2012年から14年くらいまでアメリカ政界を支配していた茶会運動の先に登場したものだということができる。つまり、「草の根の俺たちの気持ちをわかってくれる政治家をワシントンに送り込んでオバマ政権を打倒しようとしたがうまく行かなかった。結局、大企業献金まみれのワシントンの気風に馴染んでしまった奴には何も変革できない」という失望感から、「それならば、大金持ちで、歯に衣を着せぬ思ったことを自由に発言するトランプならば、そういった資金提供者の言いなりにならないはずだ」という発想が生まれたわけだ。トランプ候補は、これまでの茶会候補が持っていた、ビジネス優先、反税金(減税)、銃規制反対、退役軍人支持といった特徴も備えている。
トランプは、どのような政治家を目指しているのか――。トランプは選挙戦の最中に出版した『壊れ行くアメリカ』(Crippled America)のなかで、さまざまな政策について私見を述べている。これを読むと、彼の政治手法は「優れた人物を世界中から集めて政策を提案させ、そのうえで自らのリーダーシップでさまざまな利害関係者と交渉し、結果を出す」というビジネス手法の延長線上にあることがわかる。企業活動で世界中のビジネスマンと交渉を行った経験があり、「交渉の技法(The Art of Deal)」という著作に持つトランプならば外交交渉もうまくできるかもしれない、という期待があるのだろう。
米情報サイトのVOXが掲載した「トランプ現象を解明する21の地図とチャート」は非常に興味深い。「低賃金労働者で低学歴の共和党員は最もトランプ支持しやすい」「トランプは人種構成の変化に危機感を抱いた白人有権者の掘り起こしに成功している」「移民の急増に感じている」「政治家の経験にはこだわらない」「経済的苦境の急増がトランプ現象を説明している」「トランプはニュース報道を広告代わりできるので選挙CMにほとんど金を使っていない」などであるが、このVOXが紹介しているなかで重要なのは、ニューヨーク・タイムズが昨年の大晦日に載せた記事だ。
これによると「トランプ支持者は東部アパラチア山脈周辺、ペンシルバニア州、南部諸州の一部に多く、中西部には少ない」とするものだ。この記事では、トランプが最も有利になりそうなのはウェストヴァージニア州で、次にニューヨーク州、ノースカロライナ州、アラバマ州、ミシシッピー州、テネシー州、ルイジアナ州、サウスカロライナ州の順に続くという。サウスカロライナ州というのは州政府前に長らくアメリカにおいてリベラル派から黒人への人種差別のシンボルと言われる南軍旗(コンフェデレーションフラッグ)を掲げていた州で、ミシシッピー州も同じく映画「ミシシッピー・バーニング」で知られるように白人・黒人の隔離政策(KKKの活動)で悪名の高い州だ。余談だが、昨年、この州政府前の南軍旗を降ろした同州知事が、共和党若手の有力株と言われるインド系の人気女性知事のニッキー・ヘイリーである。ルビオ候補の支持者は黒人、インド系、彼自身がキューバ移民出身のヒスパニックと人種色豊かだ。ヘイリー知事が「ルビオ陣営はベネトンのロゴマークのようにカラフルなのよ」と演説で語っていたが、トランプが登場するまでは、もともと共和党は選挙戦術としては民主党が強いヒスパニック系や黒人の取り込みに入るはずだった。ブッシュ、クルズ、ルビオとヒスパニック系に強いか、自らがヒスパニックの政治家が、今回、予備選挙に参加していたのはそのためだ。ところが、反移民のトランプが登場したことで「眠れる白人有権者」が動き出した。
トランプ支持の多いこれらの地域の多くは、かつて民主党の金城湯池だった州である。南部民主党の牙城を崩したのが、1968年のニクソン大統領の「南部戦略」であり、レーガン大統領の選挙運動だったが、この地域が再び共和党に戻っている。記事によると、トランプの支持者のなかには「共和党よりの民主党員」と言える人も多いのだという。なお、この調査結果に従えばアイオワ州はトランプ州ではない(が、それでも2位だった)。ちなみに、トランプの人気が最も低いのはユタ州であるという。
(つづく)
<プロフィール>
中田 安彦(なかた・やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。関連キーワード
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