2024年11月23日( 土 )

日本を取り巻く環境の激変とインドの重要性(後)

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国際政治経済学者・参議院議員 浜田 和幸 氏

 アメリカは遅ればせながら、第7艦隊所属の空母「ジョン・ステニス」や駆逐艦を南シナ海へ派遣した。しかし、財政的な重荷を背負うアメリカには、かつてのような「世界の警察官」の役割を担う意思も能力もない。現在、進行中の大統領候補者選びでの議論を見れば、一目瞭然である。内向きの発想ばかりとなっている。
 自前の軍事的対応がかなわないためか、アメリカは日本やインドとの3カ国合同演習に力を入れつつある。これも日本ではほとんど報道されないが、我が国はインドと経済、軍事的な連携を強める方向に進んでいる。多分にアメリカの意向もあり、中国封じ込め戦略の下で、インド、オーストラリアとも集団的安全保障体制の構築を進めているのが安倍政権である。

 こうした動きができるようになったのも、昨年、すったもんだの末、成立した安保法制の賜物と言えよう。事態は急ピッチで動いている。たとえば、フィリピン北部での軍事演習が想定されている。この計画は、アメリカの太平洋軍司令長官ハリー・ハリス提督によって、インドのニューデリーで開催された安全保障会議の席上で明らかにされた。中国の反発を呼んだのも当然だろう。
 これまでアメリカとインドは「マラバール海軍合同演習」を通じて、2国間での軍事協力を進めてきた。この枠組みに、日本も正式に参加することが決まった。今後は毎年、3カ国で軍事訓練をすることになる。インドは日本から、最先端の水陸両用航空機など各種の防衛装備品を購入することを決めた。これも武器輸出3原則が撤廃された結果である。

 これまでインドは、アメリカから防衛装備品を積極的に導入してきた。同様に、アメリカ製のミサイル防衛システムやイージス艦、オスプレイなどの導入を図ってきた日本。その意味では、防衛面でのインドと日本の統合運用は、スムースに展開する可能性がある。外交の観点からすれば、プラス、マイナス両方あるが、見方によってはアメリカの戦略に上手く乗せられただけとも言えよう。得をするのは、アメリカの軍需産業とも言えるからだ。

ind アジアの血を引くオバマ大統領は、残念ながら指導力を発揮できないまま終焉を迎えつつある。次期大統領候補も民主、共和の別なく、内向き志向かウォールストリートの言いなりばかり。アジア地域の潜在的可能性に関心を寄せ、新たな共存共栄のビジョンを打ち出す候補者はいない。
 となれば、日本は独自の外交に踏み出すべきである。そのカギを握るのはインドだ。「アジア太平洋の時代」とよく言うが、インドのモディ首相の主張は「インド太平洋」の時代。日本とインドが協力し、安全保障からエネルギー、鉄道、医療、税制まで幅広い分野での戦略的シナジー効果を狙ってのこと。インドとの間で「ビジョン2025」を結んだ日本。当然、中国による南シナ海における岩礁の埋め立て、軍事基地化を念頭に置いた対策という側面は否定できない。しかし、より大きな可能性を秘めての合意である。

 忘れてならないのは、インドが大量の労働力を抱えていること。人口の大きさでは、間もなく中国を抜く勢いだ。人手不足、労働力不足の日本の現状を把握し、積極的な人材派遣に力を入れているのが、パール判事やチャンドラ・ボースを生んだインドである。
 さらには、IT分野の牽引車として世界の製造拠点を目指すインド。中国にとって代わり、アジアからインド太平洋全域をカバーするハブを目指す。日本も新幹線に続き、原発技術の売り込みに拍車をかける。インドとの間で原子力協定を結び、日本から原発技術の移転が可能となる仕掛けだ。
 インドが進める核実験を容認する日本。包括的核実験禁止条約(CTBT)への調印、加盟をインドに求めていた日本だが、インドが中国寄りになることを防ぐために、あえて条件を外し、日本から民生の原発技術がインドに移転できるようにしたところである。経済的利益を優先したかたちである。

 日本はインドの「アクト・イースト」政策を支援することを宣言。かつてマレーシアのマハティール首相が提唱した「ルック・イースト」ではない。ルック(見る)ではなく、アクト(行動する)、というわけだ。インドが日本と共に進める「アクト・イースト」は、中国の主張する「海のシルクロード」に対抗しようとするものだ。
 ただし注意すべきは、インドは決して中国との関係を反故にしようとはしていないことだ。日本と中国のどちらからも利を得ようとしているに過ぎない。水面下では中国との関係強化にも努めている。日本はそうした情報収集と分析のうえで、アジアの時代を切り開くべきであろう。経済面においても、同様の情勢判断が求められる。

(了)


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<プロフィール>
hamada_prf浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
参議院議員。国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選を果たした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。

 
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