2024年11月23日( 土 )

「豊中方式」は別格ですか?(後)

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大さんのシニアリポート第42回

 本市の実情はどうか。社会福祉法人社会福祉協議会は「赤い羽根共同募金」を基金として運営されている。自主事業も数多くあるが、行政からの委託による事業も少なくない。本市社協のトップは市役所からの天下りだ。どうしても行政窓口の顔色をうかがいながら進める仕事になりかねない。行政の反応が鈍ければ、社協の動きも鈍くならざるを得ない。ところがフォーラム後半のシンポジウムで、市民部長が示した「少子高齢化とその数字」、各地域に誕生した「まちづくり協議会」への期待と抱負という、今更ながらの「正論」の羅列と危機意識の低さに、聞く方が恥ずかしくなるありさま。これが現実なのである。

oh3 実は、昨年、わたしが運営する「サロン幸福亭ぐるり(以下「ぐるり」)」の常連客のなかに認知症の症状が現れ、「ぐるり」としてどう対応していけばいいのかを行政の担当窓口と社協の顔見知りに聞いた。しかし、両者とも芳しい答えを得ることができなかった。わたしが住む公的な集合住宅で起きた「DV事件」、「ギャンブル依存症」、離婚による「生活困窮と飲酒依存症」、孤独死などの相談にも具体的に対応してもらえなかった事実。「何でも相談所」のはずの包括支援センターが、「65歳以上でない人には非対応」と言い放たれたこと。正に「狭間の困窮者」たちへの対応の無神経さ。行政の反応の鈍さには枚挙にいとまがない。
 本市社協のなかに、生活困窮者の相談窓口があり、10代から80代まで、一日平均30人以上窓口を訪れるという。「フードバンク」「子ども食堂」やゴミ屋敷への対応もしているというが、大半の市民は社協の具体的な活動内容や相談窓口の存在を知らない。一方で、「いかにして住民に知らせるかが今後の課題」(広報力の充実)といいながら、「ぐるり」の来亭者にフォーラムの内容を報告したいといったら、「撮影と録音禁止」と断られた。広報の重要性を口にしながら、「規則」を盾に認めようとしない柔軟性のなさ。その矛盾に気づいていない。わたしのように現場で働くリーダーの「現場の生の声」に真摯に耳を傾けようとせず、”手順(規約)”を押しつけることに躍起となる。「何でも平等(最低部分)に合わせる」というお役所の共通意識。こうした背景が勝部さんのような突出した人物の排出を拒んできたのだ。「豊中方式」は、机上で考えられたものでもなく、国のガイドラインに沿ったものでもなく、正に必要に迫られて誕生した方式だ。だから力強さと永続性に優れているのだ。

oh2 わたしは集合住宅のあり方、そこに潜む孤独死、「オレオレ詐欺」などの特殊詐欺に関する講演を頼まれることがある。そのとき一番困るのは、「大山さんの市では、どのような対応の仕方をされていますか」という質問なのだ。講演先の依頼者も、来場者も正直意識が高い。わたしが住んでいる市では、当然本格的な対応をしていると思いこんでいるからだ。事実は前出の通り。ボランティア仲間のなかには、行政に注文を付けることのみに生き甲斐を感じている人も少なくない。それでは何も解決しない。現場を預かる者としての知恵とスキルを出して、彼らに協力する姿勢もときには必要だ。”形”ではなく、”実”を得るために。

(つづく)

<プロフィール>
大山眞人(おおやま まひと)
1944年山形市生まれ。早大卒。出版社勤務ののち、ノンフィクション作家。主な著作に、『S病院老人病棟の仲間たち』『取締役宝くじ部長』(文藝春秋)『老いてこそ二人で生きたい』『夢のある「終の棲家」を作りたい』(大和書房)『退学者ゼロ高校 須郷昌徳の「これが教育たい!」』(河出書房新社)『克って勝つー田村亮子を育てた男』(自由現代社)『取締役総務部長 奈良坂龍平』(讀賣新聞社)『悪徳商法』(文春新書)『団地が死んでいく』(平凡社新書)『騙されたがる人たち』(近著・講談社)など。

 
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