2024年04月17日( 水 )

過去の調査は無視?発達障害の原因究明に動かない福岡市

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

市の医師が環境因子説の可能性を指摘

 22日に開かれた福岡市議会 条例予算特別委員会総会の質疑で、高山博光市議(福岡維新の会、城南区)が福岡市に対し、発達障害の増加について原因究明を行うよう求めた。高山市議はこれまでも市議会において同じ要請を行ってきた。その理由は、福岡市では2008年に、こども病院、心身障がい福祉センター、西部療育センターなどの医師5名による実態調査が行われていたことにある。

ninpu 福岡市が所管する医療施設の医師5名は、1989年から2007年までの18年間で生まれた新生児のカルテを分析。その結果、2つの個人病院間で発達障害の発生率に大差があることを発見した。報告書には、発達障害の原因が遺伝ではなく、産科施設の新生児管理の違い(環境因子説)によることが考えられるとしており、07年以降も引き続き調査を行うよう市に求めている。

 この報告は、遺伝が発達障害の原因とする説に対し、アンチテーゼを投げかけるものだ。高山市議は質問のなかで、04年のデータで発達障害児の診断率に地域差があることも紹介。横浜市では1,965人の受診者のうち約50%の997人が発達障害と診断されたのに対し、隣の川崎市では703人の受信者のうち、発達障害と診断されたのは約8%の56人であった。

 福岡市の発達障害児の数は、1989年33人だったが2011年には647人と、22年間で20倍という驚異的スピードで増加。14年は802人であった。この増加ペースについて、『新しい診断基準の普及により診断機会が増えたこと』が理由とされており、福岡市の担当局長(こども未来局長)もその説明を代々踏襲している。しかし、それでは、医療施設や地域によって大差があることの説明は困難なはずである。

出産の現場から警鐘を鳴らす開業医

 福岡市には、環境因子説の可能性を指摘した市医療施設の医師5名のほかに、出産の現場から、国や自治体、全世界に対して提言活動を行っている医師もいる。福岡市中央区平尾の久保田産婦人科麻酔科医院の久保田史郎院長だ。久保田医師は14年11月に著書「カンガルーケアと完全母乳で赤ちゃんが危ない」を小学館から出版。新生児の身体に起きる低体温症や低血糖症、重症黄疸、栄養不足などが、脳に悪影響をおよぼすことが、発達障害を引き起こすというメカニズムを解き明かした。

 久保田医師は、遺伝説について「少子化をますます進める原因になる」と警鐘を鳴らす。実際に、発達障害児を抱えるある家庭では、その子どもの両親だけでなく、祖父母までも、大切な子どもの障がいは自分の責任だと遺伝説で心を痛めている。久保田医師は開業医として、環境因子説に基づき、妊婦と新生児の健康管理を徹底して行ってきた。その実績が高く評価され、これまでに約2万人の出産を手がけてきたのである。そして、その著書は、雑誌でも取り上げられるなど話題となり、15年3月には、政府・与党である自民党の『障害児者問題調査会』で講演を行った。

 高山市議は久保田医師の説や活動についても紹介。以上の貴重な調査や研究を活かし、市長主導で原因調査会を立ち上げて原因を究明すべきと提言した。その質問の最後、高島市長の見解を求めたが、代わって答弁に立ったのは保健福祉局長。同局長は、久保田医師の著書について「説得力のあるものもあったが、定説がないなか、行政が特定の行為(具体的対応)をとる段階には至っていない」とし、発達障害の原因究明は国の責務であり、「国の知見を待つ」と答えた。

【山下 康太】

▼関連リンク
・福岡市議会(3月22日条例予算特別委員会)録画(34:30~)
・久保田産婦人科麻酔科医院ホームページ

 

関連記事