「神の視点」に立って新聞を読む?(1)
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(株)報道イノベーション研究所 代表取締役 松林 薫 氏
日本新聞協会によると、2015年までの10年間で、一般紙の発行部数は649万部減った。これは、毎日新聞と産経新聞が発行する朝刊の合計(488万部)を大きく上回る数字である。しかし、今や「新聞記事」は、紙媒体だけでなく、急速に普及し続けているネットでも配信されている。ヤフーなど各ニュースサイトのトップページの3分の1から半分ぐらいは、新聞社や通信社が配信した記事で埋められる。新聞記者が書く記事には、「知られざる表現のルール」がたくさんある。果たして、私たちはそのニュースを読み、正しく情報分析ができているのだろうか。
話題の近刊『新聞の正しい読み方』(NTT出版)の著者で、前日経新聞記者の松林薫氏((株)報道イノベーション研究所 代表取締役・ジャーナリスト)に聞いた。小学校5.6年生、12.13歳ごろから全国紙を読む
―― 本日は新聞の読み方などを通して、ニュースの情報分析方法を教えて頂きたいと思います。先ず、松林さんにとって新聞とはどのような存在になりますか。
松林薫氏(以下、松林) 私にとっての新聞の存在は、同年代の方のそれとはかなり大きく違うと思います。私は現在42歳ですが、小学校5.6年生、12.13歳ごろから、全国紙を読み始めました。と申しますのは、両親の教育方針で、生家にはテレビがなかったからです。当時としてはとても珍しく、同級生たちが話すテレビなどの話題についていけなくて困ったことを記憶しています。
テレビはなかったのですが、その代わりかどうか分かりませんが、新聞は朝日新聞と中国新聞の2紙を取っていました。そこで、私は字が読めない頃から、新聞の写真などを見ておりました。そのうち記事にも興味が出てきて、深く理解できていたとは思いませんが、12.13歳頃からは、社説も読み始めました。つまり、現在まで約30年間、新聞の読者ということになります。
メディアリテラシーに関心を持ったのは浪人時代
―― 驚きました。12.13歳頃からすでに、新聞の社説を読まれていたのですか。まさに新聞の申し子ですね。
松林 そういうわけで、私は職業人として新聞に関わる前から、新聞には愛着を持っていました。しかし同時に、ある種のアンビバレント(※)な「新聞はなぜこの程度の記事しか書けないのか」などいう批判的な感情も併せ持っていたのです。
但し、現在も取り組んでいるテーマの1つであるメディアリテラシー(※)というものに関心を強く持ったのは、その後の大学浪人時代になります。当時は大学受験勉強の傍ら毎日、図書館に行き新聞を読んでいました。実家では、朝日新聞と中国新聞しか読まなかったのですが、この時、朝日、読売、産経、毎日などの全国紙を読むようになりました。
書いてあることをそのまま受け取るのは危険かな
松林 そんなある日、私は神戸市の図書館の新聞閲覧コーナーに立ち寄りました。前日に国会で国際連合平和維持活動(PKO)法案が採決されたので、その記事を読もうと思ったのです。実家でとっていたのは朝日新聞と中国新聞で、温度差はありますが、どちらもこの派遣には批判的でした。私もそれを読んで、世論はだいたいそうなのだろうと思っていたのです。
ところが各紙を読み比べて、その違いにびっくりしたのです。それは、私が「新聞というのはだいたい同じようなものだ」と無意識に信じ込んでいたからだと思います。その時私は「自分はもしかしたら、報道というものについて大きな誤解をしていたのかも知れない」と大きな衝撃を受けました。そして「どの新聞でも、そこに書いてあることをそのまま受け取るのは危険かな」とか「一紙だけ読んでいると情報が偏って危ないな」というような感情を持ちました。
そこで、大学に入った時、日経新聞と読売新聞を取ることにしました。日経は私が経済学部の学生だったという単純な理由です。しかし、読売を取ることにしたのは、読みなれた朝日とは違う論調の新聞を読むことで、バランスをとっておく必要がある、と感じたからです。当時の学生で全国紙2紙を読んでいたのは珍しかったと思います。大学院を含めて、6年間はニュースと言えば、まず新聞、という学生時代を過ごしました。そして、卒業後は日本経済新聞社に入り、記者(経済部、経済解説部など)で15年間過ごしました。
そのため、私にとってメディアと言えば、まずテレビより新聞です。インターネットには早くから興味があり、今でもとても重要なメディアと思っています。しかし、その上で、メディアとしての新聞には「もっとしっかりしてもらわないと困る!」と考えているのです。
(※)アンビバレント:同じ物事に対して、相反する感情を同時に抱くこと。
(※)メディアリテラシー:情報メディアを主体的に読み解いて必要な情報を引き出し、その真偽を見抜き、活用する能力のこと。<プロフィール>
松林薫(まつばやし・かおる)
1973年、広島市生まれ。修道高校卒。京都大学経済学部、同修士課程を修了、1999年に日本経済新聞社入社。東京と大阪の経済部で、金融・証券、年金、少子化問題、エネルギー、財界などを担当。経済解説部で「経済教室」や「やさしい経済学」の編集も手がける。2014年10月に退社、11月に株式会社報道イノベーション研究所を設立、代表取締役に就任。著書として『新聞の正しい読み方』(NTT出版)、共著として『けいざい心理学!』、『環境技術で世界に挑む』、『アベノミクスを考える』(電子書籍)(以上、日本経済新聞社)など多数。関連キーワード
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