「神の視点」に立って新聞を読む?(3)
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(株)報道イノベーション研究所 代表取締役 松林 薫 氏
将来、記者の質は大幅に劣化する
―― 前回、報道イノベーション研究所を設立された3つの目的のうち、2つまでお聞きしました。3つ目は何ですか。
松林 3つ目の目的は、とても重要ですが、5年、10年先を見つめて考えています。私は、アメリカにあるような、ジャーナリストを育成する機関「ジャーナリズムスクール」を創りたいと考えています。
昨今の日本の新聞社では新人記者教育が充分にできなくなりました。実際に入社した新人の中には、その直接的な悪影響が出始めています。このままでは、そんなに遠くない将来には、人材の質が間違いなく大幅に劣化します。これにはさまざまな要因があります。しかし、現実問題として、従来であれば、その教育を担う(ちょうど、私と同期の世代がそれに該当しています)先輩が忙しくてその時間が全くとれません。私が実感したのは日経の例ですが、同世代の他紙の記者に聞いても、全く同じか、その内容はさらに深刻なものになっています。
従来、日本の新聞社では、新人記者が入社してきますと、いわゆるOJTの一環で、先輩記者が1人付いて、取材の仕方、記事の書き方、時にはある種のジャーナリズム論を教育していました。今、新人は入社してきても、このような充分なOJT教育は受けられず、ある意味、放置されたような状態になる例が増えています。そして、どのようにこの問題を克服できるのか、今のところ、どの新聞社にも、その解は見えていないように感じます。
記者育成の「ジャーナリズムスクール」
しかし、私の予測では、恐らく遠くない将来、新聞社など日本の報道機関は新人記者の育成を外部委託することになると思います。アメリカの多くの報道機関は、新人記者の育成を大学など外部のジャーナリズムスクールに委託しています。さらには、そのようなジャーナリズムスクールで育成された記者を採用するシステムになっています。
日本の大学にジャーナリズム学科などはあるのですが、座学が中心で、ジャーナリストとしての総合技術を磨く場所としての役割は果たしていません。欧米の多くの国のジャーナリズムスクールでは、学生は座学でなく、実際の報道に携わりながら勉学に励んでいます。
例えば、コロンビア大学のジャーナリズムコースは有名ですが、同大学では通信社を持っており、記者証を持たせ、報道に携わらせ、取材させ、書いた記事を経験豊富なジャーナリストや現役記者が添削するそうです。即戦力とはいかないまでも、記者として必要な能力が充分に身に付きます。
日本でも早く、新聞社など報道機関が記者の育成を委託できるような大学、機関ができることが望ましいと考えています。このことは、新聞に限らず、テレビ、通信社など全ての報道機関において共通の喫緊の課題でもあります。私も将来的には、そのような問題解決のお手伝いができたらと考えております。
新聞は大事なことからまず書いていく―― 3番目はとても大事な構想ですね。ところで、次のテーマに行く前に、同じニュースを新聞で書く場合と、ネットで書く場合の違いに関して教えてください。
松林 私が現役の新聞記者だったとすると、両者の違いで注意する点は2つです。1つは字数制限です。新聞はかなり字数制限が厳しいので盛り込める情報量が制限されます。そして、新聞記者は大事なこと、重要なことからまず書いていくように訓練を受けています。新人記者は、記事を「逆三角形」になるように書くように教育されます。このことはあくまでも新聞の物理的な制約に由来しています。
例えば、自分が一面で、5段(かなり長い方ですが)の記事を書いたとします。しかし、締め切り間際で一面トップを飾るような大きな事件が飛び込んでくると、自分の記事を削ることを余儀なくされます。ところが、構成を組み替える時間はありません。こうしたケースでは、最後の段落から順に、記事を機械的に削っていくのです。そこで、最悪の場合、4段削られても、最初の1段だけで文章が成り立つような書き方を、最初からするのです。
ネットではそのような厳しい字数制限はありませんので、いわゆる普通の書き方、結論が最後の方にくるような書き方「三角形」になっていることが多いと思います。もう1つの大きな違いは見出しです。ネットでは、クリックしてもらわないといけないので、読者にクリックしてもらえるように、文言の工夫がされます。しかし、新聞は、基本的に、その見出しだけを見ても、その文章の内容が分かるような書き方をすることが暗黙の了解事項になっています。つまり、文章の要約が見出しになっています。
(つづく)
<プロフィール>
松林薫(まつばやし・かおる)
1973年、広島市生まれ。修道高校卒。京都大学経済学部、同修士課程を修了、1999年に日本経済新聞社入社。東京と大阪の経済部で、金融・証券、年金、少子化問題、エネルギー、財界などを担当。経済解説部で「経済教室」や「やさしい経済学」の編集も手がける。2014年10月に退社、11月に株式会社報道イノベーション研究所を設立、代表取締役に就任。著書として『新聞の正しい読み方』(NTT出版)、共著として『けいざい心理学!』、『環境技術で世界に挑む』、『アベノミクスを考える』(電子書籍)(以上、日本経済新聞社)など多数。関連記事
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