2024年11月26日( 火 )

「神の視点」に立って新聞を読む?(4)

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(株)報道イノベーション研究所 代表取締役 松林 薫 氏

信頼性や、政治的なバイアスを判断する意味で重要

 ――今回から、読者がニュースを読んで、正しい情報分析ができる助けになるようなことをいろいろと教えていただきたいと思います。まずは、覚えておいた方が良い、新聞の符丁のようなものはありますか。

(株)報道イノベーション研究所 松林 薫 代表取締役<

(株)報道イノベーション研究所
松林 薫 代表取締役

 松林 特にルールブックに書かれているわけではないので、難しいのですが、役に立つと思われるものをいくつかご紹介します。

 記事には「5W1H」が含まれていますが、その中で多くの読者が読み飛ばしてしまいがちなのがWHO(誰が)です。しかし、このWHO(「当事者」と「取材源」という2つの意味を持つ)はその内容の信頼性や、政治的なバイアスを判断する意味で極めて重要です。

 仮に「政府首脳Aは4月5日、記者団に対し『○○することを決定した』と語った」というニュースがあったとします。この場合、多くの人はAを漠然と、政府の偉い人と理解していると思います。しかし、新聞記事に登場する「政府首脳」は「官房長官」の符丁であることが多いのです。言い換えると、1割から3割の確率で「首相」であるものの、基本的には官房長官なのです。また、高い確率で、「政府高官」は「官房副長官」を、「首相周辺」は「首相秘書官」を指します。

 同様に、企業に関する記事で「幹部」と言えば、一般には「取締役」などの役員を指します。その中でも、社長など法律上の代表権を持つ人は「首脳」と表現されます。「幹部」、「首脳」が主語になっている場合は、組織の中で決定権を持っている人物なので、この点を意識して読むことが大切です。

「新聞記事は続きものである」

 ――なるほど、勉強になりました。ほかには何か、教えていただくことはありますか。

 松林 符丁ではないのですが、読者の皆さんに覚えておいてもらいたい新聞のルールがあります。それは「新聞のニュースは続きものである」ということです。どういうことかと言いますと、前に書いたことは、特別な事情でもない限り、繰り返して書かないということです。この点はネットとは大きく違います。不親切に感じるかも知れませんが、紙面の制約で仕方ないのです。さらに言えば、繰り返した場合、朝、夕毎日読んでいる読者から「その記事はもう読んだ」というクレームにつながることさえあるのです。

 「ニュース記事は難しい」「読んでも頭に入らない」という声をよく聞きます。理由はさまざまですが、原因の1つはニュースの流れが見えていないことかもしれません。新聞のニュースは続きものなので、たまに読むと、連載小説を途中から読むような感じになってしまい、分からなくなってしまうことがよくあります。その場合、私が申し上げるのは、ネットなどの利用を含めて、その前の記事を探っていただくことをお勧めしています。

 しかし本気で、ニュース記事をビジネスなどに役立てることをお考えの読者は、私は新聞社から頼まれたわけではありませんが、一度、1か月とか3か月連続して毎日、新聞をお読みになることをお勧めします。そうすることで、ニュースの連続性も理解でき、新聞に限らず、情報を分析する時にとても役に立つと思います。

「表現」「立場」「動機」の3次元分析で説明

 ――ニュースも新聞の場合は連載ものなのですね。ところで、ニュースの情報分析に役立ちそうなテクニックみたいなものはありますか。

 松林 情報、特に人や団体が発したメッセージを読み解く場合の秘訣は、一言で言えば「相手の視点に立って考える」ということに尽きます。今回の私の著書ではそのことを「表現」「立場」「動機」の3次元分析で説明しています。

 メッセージの本質を捉えるには、まず相手が使う言葉やジェスチャーといった「表現の様式」を知る必要があります。極端な話、自分の知らない言語で話しかけられても、相手のメッセージを理解できません。コミュニケーションで使用される表現の方式は「プロトコル」と呼ばれます。こうした共通の表現を理解することが、コミュニケーションが成り立つ前提条件となります。

 次に発信者の「立場」です。これは相手の発言などの真意を理解する上で、非常に重要なことです。相手が「どんな状況で発信しているのか」を知ることは「情報の意味や質」を考える上で不可欠です。同じ人でも立場によって、態度や発言する内容が変わることはよくあります。「個人としてはこう思うけど、組織の一員としては、こう言わざるを得ない」といったジレンマは誰しも経験があるはずです。つまり、裏を返せば、相手の置かれている環境や立場によって、メッセージの解釈が違ってくるのです。

 最後は発信者の「動機」です。それは「発信者にとって、何がプラスなのか、何がマイナスなのか」「発信者にとって、何が得点になり、何が失点となるのか」ということを知ることです。人や組織は行動の方向性を決める上で、こうした基準・行動原理を必ず持っています。

 以上のように、「表現=プロトコル」、「立場=制約条件」、「動機=行動原理」に注意して、新聞などの記事やニュースを読むことをお勧めします。と申しますのは、このような思考回路を身に付けることができれば、それはビジネス全般に応用することが可能になり、結果的に情報分析力を飛躍的に押し上げることになるからです。

(つづく)

<プロフィール>
松林 薫 氏松林薫(まつばやし・かおる)
1973年、広島市生まれ。修道高校卒。京都大学経済学部、同修士課程を修了、1999年に日本経済新聞社入社。東京と大阪の経済部で、金融・証券、年金、少子化問題、エネルギー、財界などを担当。経済解説部で「経済教室」や「やさしい経済学」の編集も手がける。2014年10月に退社、11月に株式会社報道イノベーション研究所を設立、代表取締役に就任。著書として『新聞の正しい読み方』(NTT出版)、共著として『けいざい心理学!』、『環境技術で世界に挑む』、『アベノミクスを考える』(電子書籍)(以上、日本経済新聞社)など多数。

 
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