2024年11月21日( 木 )

【熊本地震最前線レポート】(52)行政の機能不全~取材記者討論(前)

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 熊本地震の「前震」が発生して4月21日でちょうど1週間。(株)データ・マックスでは15日から記者を現地に派遣し、被害の状況や被災者支援、生活に必要な情報を発信してきた。頻発する地震に終息する気配はなく、日に日に被害も拡大しているなか、記者たちが被災地で見つけた問題点や今後の課題などを紹介し、来るべき次の災害に備えるための一助としたい。

 A 15日に熊本市入りしたが、市内は落ち着いた様子だった。熊本城は壊れていたものの、路面電車は普通に運行しており、被害が発生している場所が限定されていた。

 B 下通商店街には営業している店もあり、普段の3分の1程度とはいえ人が歩く姿も見られた。避難所を回ってみると、東区の東稜高校には益城町から避難してきた人たちがいて、ドクターカーや自衛隊がけがをしている人たちを搬送しているという状況だった。

 C 本田技研の熊本製作所に電話で問い合わせたところ、24時間体制で稼働しているため、夜勤者のシフトについては15日の夕方に決めるという回答だった。設備を点検しながら判断するということで意外にのんびりした印象を受け、被害はそれほどではないのかと思った。

 A 様相が一気に変わったのは16日の「本震」から。

1階部分が潰れた熊本市内のマンション<

1階部分が潰れた熊本市内のマンション

 D 高速道路は南関I Cまで行くことができたが5キロの渋滞という情報が入り、手前の菊水I Cで降りた。幹線道路でも熊本市の方に向かう道は渋滞しており、その半分は県外ナンバーだったように思う。

 B 熊本市役所で情報を集めると、東区の被害が大きいことが分かった。そこで市役所の担当に状況を尋ねても、被害の状況はさっぱり分からない。区役所に行って聞いてくれと言うばかりだった。

 A 行政がまったく機能していなかった。熊本国府高校の校庭にパイプ椅子で「SOS」が作られたことがニュースになったが、場所は水前寺公園の近くとまさに市の中心部。まさかこんなところでと驚いた。

 B 「前震」の時点でもそうだった。14日の地震で帯山小学校に200人が避難したが毛布がなく、寒さに耐えながら一晩過ごさなければならなかった。私が話を聞いた人はこのままでは熊本にいられないと、15日のうちに福岡市に避難していった。

 A 「本震」の後にやってきた熊本市の職員は建物が倒壊する危険があると言って、規制線を張っただけ。その中には地下水を汲み上げた水道があり、付近の住民はかえって迷惑した。また聞いた話だが、地元の納豆メーカーが商品を被災した人たちに食べてもらおうと自主的に持ってきたところ、熊本市の職員から廃棄させられたそうだ。理由を尋ねても教えてもらえない。あまりにひど過ぎるとみんな怒っていた。

 B 被害の状況や避難している人たちの様子は取材対象としてどうなのかと思うこともあった。しかし最低限の情報は発信する必要があると考えて取材を続けた。

 A 市の職員は何をやっていたのかと言いたい。情報発信や伝達がまったくできていなかった。また情報という面について言えば、SNSでデマが流れたことは問題だったと思う。悪質なものもあれば、勘違いもあった。SNSは流れる情報さえ正しければ、有効なツールになることは間違いない。ネットメディアの役割は生活情報をリアルタイムで発信していくことだと考える。

 C 熊本地震最大の問題は行政が混乱したということだ。

 B 東稜高校は給水ポイントに指定されていたが、実際に給水車が来たのは午前中の1回だけ。それなのにラジオでは一日中、東稜高校が給水ポイントであるという告知が続いていた。それを信じて水をもらいに来た人ががっかりして帰っていったのがかわいそうだった。

 A 問題の一つとして、本震が発生した後も、新聞やテレビが益城町の被害を伝えたことで、他の被災地への注目が薄まったことだと思う。

 C 16 日の南阿蘇村は幹線道路の国道57号線を車がほとんど走っていないという状況だった。普段の57号線は阿蘇山やその近郊の観光施設などを訪れる人の車でにぎわっているので、とても対照的な光景に感じられた。信号機は停電で消えていたものの、道路には陥没した箇所もなく車もスムーズに走った。崩落した阿蘇大橋の近くまで行ってみたが、見かけたのは広島県警の応援部隊や地元の消防団、一部の住民で、取材するマスコミの姿もあった。

 A 熊本市の市域の規模は大きいので、被害の程度や避難状況などは場所によって大きく違う。このため、避難所のなかに物資が足りているところと行き届かないところがある支援格差が問題になっている。この原因はまず行政が機能していないこと。さらにはメディアの情報に偏りがあるため、外の人間に被害が大きいと思い込まれた場所ばかりに支援が集中してしまっている。

 C どこまで物資が届いているかという情報も伝えなければならない。

(つづく)

 
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