2024年11月25日( 月 )

2016中国「全人代」報告~困難と希望が混在(前)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

(株)アジア通信社代表取締役社長 徐 静波 氏

 3月3日から16日の日程で、「中国両会」(「全人代」と「政協」)(注1)が北京で開催された。今年の主なテーマは(1)「第13次5カ年計画」と(2)2016年の国家予算であった。それによると、今後5年間の経済成長率は6.5%以上とし、16年の国防予算は10年ぶりに1ケタ増に抑制されることになった。世界が注目する中国経済の現在は、そして未来はどうなるのだろうか。(株)アジア通信社代表取締役社長兼『中国経済新聞』編集長の徐静波氏に聞いた。
 中国の「全人代」はすでに「世界の全人代」となっており、中国の政治・経済の動向を観察するために、世界中から記者が集合する。今年は「一帯一路」の要の1つと言われるアフリカからも、15名の記者が駆けつけた。

例年と比べると、少し空気が重いように感じた

 ――ご帰国早々で恐縮です。今年の全国人民代表大会(以下、全人代)はいかがでしたか。

 徐静波氏(以下、徐) 今年は中央政府幹部の人事異動(注2)はありませんでした。しかし、重要な議題が2つありました。1つは、習近平政権が初めて策定した新しい中期経済政策「第13次5カ年計画」(2016年~2020年)を内外に向けて改めて宣言したことです。もう1つは、「新常態」における2016年の国家予算です。

 私は1997年から連続して19年間にわたり、全人代を取材しています。その経験から申し上げますと、今年は例年と比べると、少し空気が重かったように感じています。それには2つの理由が考えられます。
 1つは、中国経済の成長率が鈍化して元気がないことです。もう1つは共産党による世論統制が一層厳しくなり、幹部、議員たちの発言が慎重になっていたことです。

革新、協調、エコ、開放、共に享受という理念

 ――今年の全人代で徐編集長が注目する点を、いくつか教えていただけますか。

(株)アジア通信社代表取締役社長 徐 静波 氏<

(株)アジア通信社代表取締役社長 徐 静波 氏

 徐 私が注目すべき点は7つあります。1つ目は、「第13次5カ年計画」です。「中国両会」(「全人代」と「政協」)に先立ち、中国共産党の第18期中央委員会第5回全体会議が開催され、そこで第13次5カ年計画の発展理念として、(1)革新、(2)協調、(3)エコ、(4)開放、(3)共に享受――の5つが打ち出されました。これらは、中国の今後5年間の経済・社会の重要な指標となっていきます。

 2つ目は「供給側の意構造改革」です。世界経済低迷の影響も含めて、今年の中国経済は大きな試練と新たな不確定要因に直面しています。この障害を乗り越えるために供給側の構造改革(生産能力を減らし、在庫を減らし、レバレッジを解消するなど)は必須です。
 そのためには、ロードマップやタイムテーブルをつくり、さらには改革の痛みをいかにコントロールし、いかに耐えるかを考える必要があります。李克強総理は、「如意棒を振り上げて、試練に対処する必要があり、努力さえすれば、乗り越えられない障害はない」と述べています。

 3つ目は「メイド・イン・チャイナ2025」(高付加価値型の製造強国を目指す)と「インターネット」です。中国製造業の今後10年間の行動要領とインターネットがどのように融合を加速し、中国製品、中国経済に新たな運動エネルギーをもたらすことができるのかが、
大切になっています。

 4つ目は「貧困脱却の難関突破」です。現在700万人いる貧困層を、2020年までにすべて貧困から脱却させることを目標としています。15年11月以来、政府は貧困脱却の決意をたびたび示し、その「戦術」も明らかにし、各級幹部が貧困脱却に全力で取り組むことを指導しています。

 5つ目は「運命共同体」です。中国政府は、「周辺運命共同体」から「アジア運命共同体」、そして「人類運命共同体」の理念を打ち出しています。世界各国とWin-Winの関係を構築し、連携して前進していくことを目指しています。

 6つ目は「4つの意識」です。現在、中国は「中所得国の罠」(注3)と「トゥキディデスの罠」(注4)という2つの大きな世界的難題に直面しています。この打開策として、1月末に招集された中共中央政治局会議では、(1)政治意識、(2)大局意識、(3)核心意識、(4)一致意識の強化――という、4つの政治キーワードが打ち出されました。これは、中国の政治、ガバナンスが新たな段階に入ったことを示しています。

 7つ目は「五大戦区」です。中国開放軍は「七大軍区」から「五大戦区」に変わりました。これは1950年代以来の最大規模の軍事改革であり、軍事力強化戦略の一環として捉えられています。

(つづく)
【金木 亮憲】

(注1):全人代は全国人民代表大会の略称。中華人民共和国の一院制議会で、憲法上、国家の最高権力機関および立法機関として位置づけられている。(日本の衆議院に相当)政協は、中国人民政治協商会議の略称。中国共産党、各民主党派、各団体、各界の代表で構成される全国統一戦線組織である。(日本の参議院に相当)
(注2):17年の「第9回共産党大会」では習近平主席、李克強総理を除く5名の政治局員は全員交替する。今年はその前哨戦として地方幹部が人事異動している。新任地方幹部は50代前後、高学歴(修士、博士)、欧米・日本への留学経験などの特徴を持っている
(注3):自国経済が中所得国のレベルで停滞し、先進国(高所得国)入りがなかなかできない状況のこと
(注4):「新興の大国は必ず既存の大国へ挑戦し、既存の大国がそれに応じた結果、戦争がしばしば起こってしまう」という歴史家トゥキディデスの法則

<プロフィール>
jo_pr徐 静波(ジョ・セイハ)
 政治・経済ジャーナリスト。(株)アジア通信社社長兼『中国経済新聞』編集長。中国浙江省生まれ。1992年に来日し、東海大学大学院に留学。2000年にアジア通信社を設立し、翌年『中国経済新聞』を創刊。2009年に、中国ニュースサイト『日本新聞網』を創刊。著書に『株式会社 中華人民共和国』(PHP)、『2023年の中国』など多数。訳書に
『一勝九敗』(柳井正著、北京と台湾で出版)など多数。日本記者クラブ会員。経団連、日本商工会議所、日本新聞協会等で講演、早稲田大学特別非常勤講師も歴任。

 
(中)

関連キーワード

関連記事