2024年11月25日( 月 )

2016中国「全人代」報告~困難と希望が混在(後)

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(株)アジア通信社代表取締役社長 徐 静波 氏

2、3年前と比べて、多少の違和感

 ――少し話を転じます。報道によりますと、習近平主席と李克強総理の関係が注目されています。徐編集長はどう感じましたか。

 徐 ニューヨークタイムズに、李克強総理が「政府活動報告」を行った際、「2時間近くで40回を越える拍手が起きたが、習近平主席は一度も拍手をしなかった」とか「習近平主席と李克強総理は入場から退場まで交流がなかっただけでなく、李克強総理が報告を終えた際、習近平主席は慣例の起立、挨拶の握手しもなかった」という内容の報道がされています。
 たしかに、2人は2,3年前にはとても仲がよく、頻繁に相談しながら事を進めていたので、私も多少の違和感を持ちました。現在、噂の範囲ですが、「習主席は李総理の経済のやり方、進め方に不満がある」とか「李総理は経済についても、習主席が主導権を握ってしまったので、やりづらくなっている」という話が出ています。

(株)アジア通信社代表取締役社長 徐 静波 氏<

(株)アジア通信社代表取締役社長 徐 静波 氏

 習主席誕生以来、幹部の汚職事件は大幅に減りました。しかし、世界経済の影響が大きいとは言え、中国経済に元気がなくなっていることもたしかです。最近の中国人民銀行の数字では、6割の企業が中国経済の将来を心配しています。

 それは中国経済が経済成長構造の改革や産業の付加価値を高めながら、経済の持続的成長を約束する「新常態」にギアをシフトしている途次にあるからです。しかし、一時的とは言え、その過程で経済の下降や企業倒産、失業が発生することは避けられません。すなわち、いずれにしても、経済の舵取りがとても難しくなっているのです。

 2人の仲が悪いと言う話は入ってきていませんので、引き続いて観察していきたいと思っています。

リコノミクスからキンペミクスへの転換か?

 ――現在は経済の主導権も習主席が握っているのですか。では、習主席の考える経済学とはどのようなものですか。

 徐 今回の全人代では、「リコノミクス(李克強経済学))という言葉に代わって、「キンペミクス(習近平政治経済学)」が人々の話題になりました。これについて、新華社は、13日の報道で、以下の8つのキーワードを挙げて説明しています。

(1)人々中心:社会主義の本質、労働者は主人であり、地位は体現されなければいけない。
(2)全面的小康:第13次5カ年計画で、貧困脱却の難関を突破する。
(3)基本的経済制度:社会主義の基本的経済制度を維持しつつ、非公有制経済の発展を奨励。
(4)新発展理念:環境保護を優先し、環境保護を着実に推進しなければならない。
(5)「両手」論:核心は「政府」と「市場」との関係を上手く処理することである。
(6)新常態:民営企業は主体的積極性と革新創造精神を発揮して適応するべきである。
(7)供給側:効果のない供給やロークラスの供給を減らすなどの改革に正面から臨む。
(8)開放型経済:公平で統一された効率的な市場環境の形成を加速する必要がある。

習主席が重視する学者型ブレーンである劉鶴

 ――なるほど、ところで習主席には、経済政策ブレーンはいるのですか。

 徐 習主席が経済面で極めて重視している学者型ブレーンに、劉鶴(中央財形指導グループ弁公室副主任兼国家発展と改革委員会副主任)がいます。彼は江沢民・胡錦濤を助け、2人のために経済演説の原稿を起草してきました。中央経済および中国経済の実際状況に関しても明確なプランを持っています。第8期から13期までの「5カ年計画」にもすべて参画し、中国の経済状況を熟知しています。さらに習主席が提唱する、城鎮化(都市化)建設、産業構造の合理化、高度化面などの経済テーマの理論的支柱にもなっています。

30カ国を越える国々と共同建設の覚書に調印

 ――最後に、「第13次5カ年計画」はもちろん、中国の経済成長を支える、外需の柱「一帯一路」の進捗について教えていただけますか。

 徐 中国国家発展・改革委員会の徐紹史主任は、全人代会期中の6日の記者会見で「今年、中国は協力覚書に調印した『一帯一路』沿線国に対し、具体的な実行タイムテーブルを示し、一部の重要なロード建設を推進、鉄道建設や競争優位産業の移転といった国際生産能力協力の面で実質的結果を出し、金融面でも下支えを強化していく」ことを明らかにしています。

同じく徐主任は「昨年は、『一帯一路』沿線65カ国のうち、30カ国を越える国々と共同建設について協力覚書に調印した。そのうち、中国・モンゴル・ロシア経済回廊、中国・インドネシア経済回廊、新ユーラシア大陸ブリッジ回廊、中国・中央アジア・西アジア回廊という骨格となる地域では、協議が進められ、すでに建設段階へ踏み込んだものも出てきている」、そして「中国と『一帯一路』の投資貿易も急速に発展、中国とカザフスタンの生産能力の総投資額は230億ドルを超え、中国・パキスタン回廊では300億ドル超のプロジェクトが進行中である」と述べました。

 「一帯一路」の呼びかけは、「ユーラシア大陸の発展と協力が必要である」との声の拡がりに応じてなされたものです。これらの計画で中国が主導的役割を果たすことは、「中国が国際システムの参加者から公共財の提供者に急速に変わりつつある」ことを物語っていると思います。

(了)
【金木 亮憲】

<プロフィール>
jo_pr徐 静波(ジョ・セイハ)
 政治・経済ジャーナリスト。(株)アジア通信社社長兼『中国経済新聞』編集長。中国浙江省生まれ。1992年に来日し、東海大学大学院に留学。2000年にアジア通信社を設立し、翌年『中国経済新聞』を創刊。2009年に、中国ニュースサイト『日本新聞網』を創刊。著書に『株式会社 中華人民共和国』(PHP)、『2023年の中国』など多数。訳書に
『一勝九敗』(柳井正著、北京と台湾で出版)など多数。日本記者クラブ会員。経団連、日本商工会議所、日本新聞協会等で講演、早稲田大学特別非常勤講師も歴任。

 
(中)

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