2024年11月05日( 火 )

トランプ「大統領」の外交・金融政策が日本を直撃する(1)

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副島国家戦略研究所(SNSI)研究員 中田 安彦

 アメリカ大統領選挙で共和党の候補指名を確実にしたドナルド・トランプが、アメリカのテレビインタビューで積極的に独自の「政権構想」を語っている。前回、書いたように、今の段階でトランプが大統領になる可能性はさほど高くない。しかし、彼の発言がワシントンやニューヨークの政財界のパワー・エリートに対して反発を覚える草の根の大衆から支持されていることを考えると、無視できない。仮にいま予想されている通りヒラリー・クリントンが大統領になっても、トランプを支持してきた有権者の影響力は残るだろうからだ。

usa_america2 トランプは、アメリカ国内で大きな関心を持たれている不法移民対策や貿易政策について大統領選出馬を表明した当初から、「メキシコ国境に壁を張り巡らせ不法移民を排除する」という冗談としか思えないものや、「中国や日本から輸入品に対して高い関税を課してアメリカの雇用を守る」という保護主義政策を打ち出してきたことはよく知られている。貧困層に支持されている健康保険政策(メディケア)については、共和党の主流派が財政健全化のために見直しを主張するのに反して、これを「維持する」と討論会などで明言してきた。この辺りのさじ加減で草の根の大衆の支持を上手く掴んでいるとも言えるだろう。

 ただ、今年の3月くらいからトランプは、大手新聞のインタビューに応じて、それ以外の政策、具体的には外交政策や財政・金融政策について断片的に語り始めた。外交については、3月下旬には、アメリカ政界に影響力があるイスラエル・ロビーの団体であるAIPACの集会において、普段は使わないプロンプターに、あらかじめ用意した演説原稿を映し出しながら外交政策について演説したほか、数日後にニューヨーク・タイムズ紙(3月26日)のインタビューに応じている。予備選で連戦連勝を続けていた4月27日にはワシントンで外交専門誌の主催するイベントで外交演説を行っている。
 これらの演説やインタビューでわかることは、トランプは世界のどこまでもアメリカ軍を派遣して軍事行動はしないという考えの持ち主であり、イスラエルはアメリカの同盟国だとしつつも、これまでのように一方的にイスラエルに肩入れするのではなく中立の立場であるべきだという考えだ。
 当然ながら、ブッシュ政権が開始したイラク戦争には強く批判的である。同時に、アメリカが「世界の警察官」で在り続けることはできないという考えで、日本、韓国、そして冷戦時代をともにソ連打倒のために戦ったNATO諸国に対しても、アメリカの軍事費コスト負担の割合が理不尽に多いと不満を漏らしている。なお、南シナ海で中国が岩礁を埋め立てて軍事化している問題については、トランプは「中国に対してアメリカの経済力や通商をてこに交渉を行う」以外の具体的な解決策を示していない。サウジアラビアに対しても、「彼らがISISと戦う地上軍を自ら出さなければ、サウジから石油を買わない」と手厳しい発言している。

(つづく)

<プロフィール>
nakata中田 安彦(なかた・やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。

 
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