2024年11月24日( 日 )

認知症を作っているのは誰?(前)

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大さんのシニアリポート第44回

 「サロン幸福亭ぐるり(以下「ぐるり」)」の来亭者のひとり、是枝冴子(仮名・78歳)さんが、長年抱えていた腰痛の手術に成功して戻ってこられた。腰痛手術の成功例を知らないわたしは、「奇跡的だ」と喜んだ。ところが、冴子さん自身の顔色が、名前のようには冴えないのだ。「だって、認知症だっていわれたのよ」と憤慨する。近所にある掛かり付けのB病院の医者に報告に出かけたところ、いきなり、「認知症です。薬を飲んでください」と宣告されたという。「そんなはずはない」と投薬を拒否すると、「なら、娘さんを呼んでください」といわれ、後日、娘と同道すると、「お母さんは明らかに認知症です。娘さんからも薬を飲むよういってください」と説得されたという。掛かり付け医のいうのには、「一目見れば、認知症かどうか分かる」と自信満々に断言したそうだ。診察もせずに、それも信用していた掛かり付けの医者に宣告されたら、あなたならどうします?

「サロン幸福亭ぐるり」の室内 <

「サロン幸福亭ぐるり」の室内

 腰痛手術をしたA病院の担当医に、「長期入院は認知症を引き起こす可能性があるので、担当部署で検査してください」といわれ、冴子さんが検査。結果は、「異常なし」。なのに、掛かり付け医に、検査もなしに、いきなり「認知症です。薬を出しましょう」といわれたのだ。「それだけじゃないの」と後日、追加の話を聞いた。「信用できないなら、C医院を紹介します。そこで診察を受けてください」といわれた。しかたなく冴子さんが同じ地区にあるC医院で診察を受けた。すると、院長に、「間違いなく認知症です。薬を出しておきます」との診断。「A病院のように、ここでも検査なんてなにもしないのよ(実際には口答による簡易な検査はあったよう)。人の顔を見るなり、認知症です。信用できません」と息巻く。

 問題はその先。娘が必死の形相で「お母さん、先生のいうことを聞いて薬を飲んで」と迫る。根負けした冴子さんは、仕方なく処方された薬を服用した。1週間後、体調不良で寝込む。「飲んじゃだめ」と見舞いに来た友人に諭されたので、思い切って薬の服用を辞めた。すると、体調が好転し普段の生活に戻ることができた。娘には「飲んでいる」とウソをついた。体調が戻った様子を見て、娘は「薬のおかげ」と信じ込んでいる。「大山さん、誰を信用すればいいの」と強い口調で投げかけられた。それはそうだろう、10年以上是枝冴子さんを診てきた掛かり付け医が信用できなくなったのだから。

kasu 興味深い新書を読んだ。『認知症をつくっているのは誰なのか』(村瀬孝生・東田勉 SB新書)である。そのなかに実に興味深い文章がある。少し長いが引用する。「かつて痴呆と呼ばれ『だいぶぼけてきたね』で済まされていたお年寄りが、今では認知症という病名をつけられ、医療の対象となって薬物療法を施されているからです」「認知症のことを知らない(と言うより、お年寄りの生活に興味がない)医者が『治療薬がある』という理由で積極的に認知症という診断を下し、薬を出すようになったのです。その結果、うつ病の薬ができたためにうつ病の患者数が飛躍的に増えたのと同じような現象が起こりました」「認知症は、国や製薬会社や医学界が手を組んでつくりあげた幻想の病です」と断言している。

 これが事実とするなら、実に怖い話だ。医者が病気を作り、薬を処方する。医者も薬局も、製薬会社も儲かる。「医者がグルになってわたしを苦しめる。このままじゃ、わたしは殺される」という是枝冴子さんの叫びはあながち大袈裟とはいえない。追い打ちをかけるように、「認知症を引き起こす原因疾患は70種類もあると言われますが、これらを正確に鑑別できる医者はめったにいません。鑑別できなくても『認知症』と診断すれば、アリセプトを始めとする抗認知症薬が投与できてしまいます。抗認知症薬には副作用があり、興奮や徘徊といった副作用が出たら、それを抑えるために向精神薬が投与されます。そのことによって、お年寄りは本物の認知症にされてしまうのです」(同)。

(つづく)

<プロフィール>
大山眞人(おおやま まひと)
1944年山形市生まれ。早大卒。出版社勤務ののち、ノンフィクション作家。主な著作に、『S病院老人病棟の仲間たち』『取締役宝くじ部長』(文藝春秋)『老いてこそ二人で生きたい』『夢のある「終の棲家」を作りたい』(大和書房)『退学者ゼロ高校 須郷昌徳の「これが教育たい!」』(河出書房新社)『克って勝つー田村亮子を育てた男』(自由現代社)『取締役総務部長 奈良坂龍平』(讀賣新聞社)『悪徳商法』(文春新書)『団地が死んでいく』(平凡社新書)『騙されたがる人たち』(近著・講談社)など。

 
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