米大統領選、ドナルド・トランプのネオコン退治(後)
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副島国家戦略研究所研究員(SNSI) 中田 安彦
トランプは18日(日本時間19日朝)には、自らニューヨーク・マンハッタンのヘンリー・キッシンジャー元国務長官の自宅を訪問し、外交政策についてのコンサルティングを1時間にわたって受けている。もはや言うまでもなくキッシンジャーはデイヴィッド・ロックフェラーの側近で、ビルダーバーグ会議の主要メンバーだ。トランプ支持者の草の根の大衆が最も嫌がる人物の1人がキッシンジャーだろう。
側近の助言もあるのだろうが、トランプはエスタブリッシュメントとの予備選挙の際の対立を修復している。今年のビルダーバーグは、6月9日から移民問題で揺れる旧東ドイツのドレスデンで開催されることが決まっている。この会合でもヒラリーとトランプの比較衡量が行われるのだろう。そういえば、トランプは去年の8月に他の候補と一緒に、キッシンジャーと同じくビルダーバーガーの外交問題評議会(CFR)のリチャード・ハース所長と面談していた。今から思えばこれも「面接」の一貫だったのだろう。ハースは、米国の外交専門家がサインした「反トランプ」の公開書簡に参加していなかったこともわかっている。(参考:http://goo.gl/6UgJNU)
私の独断だが、トランプ候補が成し遂げたのは、「ブッシュ王朝の阻止」と「クリントン王朝への挑戦」だと思っている。ブッシュ前政権には対外拡張主義のネオコン派が幅を利かせた。反トランプのネオコン派はクリントンへの期待を述べ始めたところだ。
しかし、反クリントン王朝というのはいまや共和党を団結させる唯一のスローガンだ。アメリカは国王のいない共和国であって世襲王朝ではない、というのが彼らの建前だ。そもそも、ネオコン派の外交政策の暴走がアメリカの衰退を早めた。これはオバマ大統領も示す認識だ。ネオコン派は米国の二大政党制の真ん中に存在する「コウモリ」(党派性をはっきりさせない)のような集団で、レーガン政権のソ連打倒の戦略を実施したものの、イラク戦争でその知的傲慢さを露呈した。
イスラエルのリクード党寄りの共和党のネオコン派は、まずはブッシュ、次にルビオ、そして最後はクルーズと自分たちの支持候補を次々と変えていった。反トランプ特集の企画を雑誌で打ち出した。しかし、草の根の怒りを一身に背負ったトランプにはかなわなかった。
実に逆説的だが、1980年代初頭、レーガン政権が導き入れたネオコン派という知識人集団をトランプが追い出しにかかっている、ということなのだ。トランプは大衆草の根を焚きつけて、彼らの間に存在する「反知識集団」の怒りをネオコン派にぶつける一方で、共和党の穏健なエスタブリッシュメントには軌道修正を図る。トランプの顧問の共和党系ストラテジストのポール・マナフォートという人物は4月中に「トランプは自らの役割を演じているだけだ」と議会関係者との密談で述べて、その音声が流出したが、まさに彼はそのような「見える政治(ポピュリズム)と見えない政治(共和党指導層との宥和)」を行っているということなのだ。
(了)
<プロフィール>
中田 安彦(なかた・やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。関連キーワード
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