ギャンブル依存症とのつきあい方(前)
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大さんのシニアリポート第45回
私が運営する「サロン幸福亭ぐるり」(以下、「ぐるり」)の常連客だった宮西信子(仮名・75歳)さんが、突然、来亭しなくなった。「ぐるり」のコンセプトは、「来たいときに開いている店」(だから毎日開ける)、「来たくなくなったら来なくていい店」(会員制をとらない、強制しない)である。だから、突然姿を見せなくなっても不思議ではない。しかし、宮西さんの動向について、心配な噂が耳に入るようになった。嫌な予感がした。
「パチンコ屋から出てくる宮西さんの姿を見かけた」という人が現れたことから、事態が急変する。
高齢女性がパチンコに興ずることに、問題はない。「生活保護を受けている人がパチンコに興じるのはいかがなものか」という疑問を呈する人もいるが、生活をエンジョイするために、生活保護費(税金であるにしても)を飲酒やギャンブルにつぎ込むのは本人の自由だ。それが原因で生活に窮することがあっても、自己責任の範囲内だと思う。
宮西さんの噂には、さまざまな色が付いて広がりを見せ始めた。「一日中、パチンコ屋に入り浸っている」「友だちが寄りつかなくなった」「軍資金に困っているらしい」「食事にも事欠いているようだ」――など。
この問題の行き着く先は、どれも同じなのである。予想していた通り、「借金を申し込まれた」「金貸してくれって、泣きつかれた」という話が漏れ聞こえはじめた。
申し込まれた人は大いに戸惑ったことだろう。戸惑ったあげくに全員が貸したという。なかには、「くれてやった」とうそぶく人もいた。返せないことを承知で貸したのだろう。初めのうちは返金するものの、やがて返せなくなる。それを繰り返すうちに、貸してくれる人を失う。つまり、友人をなくす。そして、民間の金融機関(サラ金・ヤミ金)に手を出し、やがて自転車操業に…。最後は家族や親戚にまで金策に走り、縁を切られるという図式だ。
あれから1年余。驚いたことに、いまだに宮西さんに金を貸す人がいるという。宮西さんはいわゆる“口がうまい”人だ。オーバーに演じられれば、たいていの人は貸してしまうだろう。金を貸してしまったことのある人は、「可哀想だから」「返してくれると思ったから」のほかに、「早くこんな嫌なことから逃れたかった」「戻ってこないのはわかっている。でも、二度目に来たときに断りやすいから」などと話した。
「ぐるり」の亭主としては正直、関わりたくない問題である。「地域」を相手にしているコミュニティ施設の責任者として、積極的には踏み込みにくい。
“被害者(金を貸した人)”も宮西さんの立場を考慮したのか、私に直訴しない。しないのに勝手に行動を起こすこともできないし、最良の解決策も知らない。(つづく)
<プロフィール>
大山眞人(おおやま まひと)
1944年山形市生まれ。早大卒。出版社勤務ののち、ノンフィクション作家。主な著作に、『S病院老人病棟の仲間たち』『取締役宝くじ部長』(文藝春秋)『老いてこそ二人で生きたい』『夢のある「終の棲家」を作りたい』(大和書房)『退学者ゼロ高校 須郷昌徳の「これが教育たい!」』(河出書房新社)『克って勝つー田村亮子を育てた男』(自由現代社)『取締役総務部長 奈良坂龍平』(讀賣新聞社)『悪徳商法』(文春新書)『団地が死んでいく』(平凡社新書)『騙されたがる人たち』(近著・講談社)など。関連キーワード
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