2024年12月24日( 火 )

ロッテ捜索の真相(前)

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日韓ビジネスコンサルタント 劉明鎬(在日経歴20年)

 ロッテグループは、年間売上高83兆ウォン、系列会社数は90社、従業員数は18万人(韓国12万人、日本6万人)を誇る韓国財界5位のグループであるが、創業以来最大の危機に瀕している。ロッテグループの辛東彬(シン・ドンビン、日本名武雄昭夫)会長は、今海外に出張中だが、韓国の検察当局は、その隙を狙ったかのように、急遽ロッテグループの強制捜査に突入した。今回の捜索は動因された人員だけでも、200名以上の大規模で、辛東彬会長の自宅をはじめ、ロッテグループの17箇所を一斉捜索することとなった。

 ロッテグループの危機は、これからが本番だと韓国では噂されているが、今後どのような展開になるのかは誰も予測できない。今回はロッテ捜索の原因と、その結果ロッテにどのような影響が出ているのか、それから、捜索は今後どのような結末を迎えることになるのかについて取り上げてみたい。

korea 今回の捜索は、昨年7月に兄弟同士で経営権を争っていた、お家騒動である「皇子の乱」に、端を発していると言われている。ロッテのお家騒動は、結果的にロッテグループに対する国民の認識を愛情から反感に変えてしまった。ロッテグループは李明博(イ・ミョンバク)政権とは非常に仲がよく、一番政権の庇護を受けた企業だといわれていたが、朴謹恵大統領になってからも政権への協力を惜しまなかった。ところが、予期せぬお家騒動が発生し、朴政権で実施しようとした政策に、冷や水を浴びせるような格好になってしまったとも言われている。

 そのような状況の中で、検察当局はロッテに狙いを定め、その間ロッテグループに対する内部調査を内密に進めていたらしい。それに、内部の告発なども加わり、検察当局は、ロッテグループの系列内取引での裏金の助成、脱税、背任などについて内部調査を進めてきていて、それなりの証拠を確保するようになったらしい。一部では、なぜ、このタイミングでロッテへの捜索は行なわれたのか、すでに昨年末から脱税などの証拠を確保したという噂もあったのに、なぜ今なのか、タイミングを巡って、いろいろな憶測が飛び交っているのも事実である。検察当局の説明によると、ロッテ内部でどうやら捜索の情報が漏れていて、証拠隠滅の恐れがあったので、急遽捜索に踏み切ったと答えている。それでは、去年7月のことをさらっとおさらいしてみよう。

 ロッテグループは、創業者の重光武雄氏(韓国名は辛格浩・シンギョクホ)を頂点に、韓国ロッテグループの経営は、次男の辛東彬氏(シン・ドンビン、日本名は重光昭夫)に任せ、それから日本ロッテグループの経営は、長男である辛東柱(シン・ドンジュ、日本名は重光宏之)氏に任せてきた。しかし、長男の辛東柱氏は父上の期待通りの経営結果を出していない反面、次男の辛東彬氏は、ロッテワールドタワーの事業認可を韓国政府から取り付けるなど、かなりの経営手腕を発揮し、総括会長(重光武雄氏)から経営能力を評価されていたようだ。

 長男は大人しくて、リーダシップがあまりない反面、次男は野村證券出身で、アグレッシブで、韓国の政権ともいい関係を築くなど、ロッテを韓国5位の財閥に育て上げていた。そのような中で、辛東柱(シン・ドンジュ)氏は、ロッテ製菓の株を密かに買い増ししたことで、父上の逆鱗に触れ、父上と対立していた。ところが、対立していたはずの重光武雄氏と辛東柱氏が一緒に日本に来て、辛東彬氏を解任すると発表したので、世間では当惑をした。その背景には辛東彬氏が中国事業で失敗した事実を隠していたが、それを辛東柱氏は父に告げ口し、それを知った父が激怒したという。

 辛東柱氏はそのような父の感情を旨く利用して、自分の立場を有利に進めようとしたが、結果は自分の思うとおりにならなかった。即ち、結果は辛東彬氏の勝利に終わる。その後も辛東柱氏は去年の8月と今年の3月のロッテホールディングスの臨時総会で、経営権の掌握を試みたが、2度とも失敗して、現在は辛東彬氏がロッテホールディングスの会長になっている。辛東柱氏は、日韓の事実上の持ち株会社であるロッテホールディングスの従業員持ち株会を、自分の味方につけることで、経営権を握ろうとしたが、そのようにならず、かえって会社から追われる結果になった。

 しかし、その後も、辛東柱氏は経営権への未練を捨てきれず、今回捜索の手が及ぶなど辛東彬氏に危機が迫っているのを見て、状況が自分に有利になったと判断し、またもや、6月末の株主総会に辛東彬会長と佃孝之社長を取締役から解任することを案としてあげている。辛東彬会長は、株式総会に備えるため、現在日本に滞在しているが、今回の株式総会で韓国での捜索は、どのような影響を及ぼすのかを巡って、日韓両国でも、その動向に神経をとがらせている。

 辛東彬会長は、ロッテグループの捜索への対応よりも、まずはロッテホールディングスの経営権の防御が先決だと思い、韓国に帰国せず、アメリカから日本に移動し、現在株主総会に備えている状況である。日本での記者のインタビューでは、今回の株主総会は、全然心配していないと辛東彬氏は言っているが、本心は穏やかではなかろう。辛会長を取り巻く状況は、弱り目に祟り目のような状況であるからだ。

(つづく)

 
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