川崎老人ホーム転落殺人事件(9)~介護職員の光と影
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第9回 今井隼人容疑者誕生の背景にあるもの
一転して黙秘を続ける今井隼人容疑者。この転落殺人事件の背景を、今井個人の資質に委ねた報告をしてきた。それは今でも変わりがない。しかし、殺人事件の現場が有料老人ホームという特殊な状況下で起きたことを考えてみると、施設を運営する側の経営の内容と質抜きには考えられない。「週刊文春」(平成27年12月10日号)に、国際政治学者・天川由記子氏が、「低賃金の重労働が『介護現場』をここまで荒廃させた!」と題し、自身の介護体験を踏まえて荒廃しきった介護現場を詳報している。そこに「Sアミーユ川崎幸町」の現場報告があった。
天川氏は、85歳(当時)になる“要介護5“の実母を施設に入居させるにあたり、2012年2月から数カ月各施設を見学した。入居先の候補として検討していたのが、「Sアミーユ川崎幸町」だった。今井隼人が最初に殺人を起こしたのは2014年11月。翌月には第2、第3の殺人事件を起こしている。天川氏が「Sアミーユ川崎幸町」を見学した約2年半後である。2015年3月には浴室での「溺死」、5月に「虐待」。その間に、今井容疑者が入所者の財布盗難で逮捕と、職員による不祥事が相次いだ。天川氏が見た「悪夢」は続いていたとしか考えられない。「悪夢」の内容はこうだ。
「看護師がいるのは昼間だけで夜間は常駐していない。提携ドクターも予定が重なった場合は、丸一日来られないこともある」。天川氏がホームページの記載内容と違うと抗議。「責任者は経験豊富とは言い難い30代前後の男性で、シワシワのシャツに薄汚れたジーンズ姿。それどころか名札もつけていない」「施設内は掃除が行き届かず埃だらけで、廊下にもゴミが目立った」。結局、天川氏は入居を見送る。
その後、2013年10月から半年間、在宅介護を余儀なくされ、ケアマネと訪問介護、訪問入浴をある業者に依頼。依頼先が皮肉にも「メッセージ」(「Sアミーユ川崎幸町」の運営母体のひとつ)の子会社だった。この業者を選んだ最大の理由が「24時間地域巡回・随時訪問サービス」だ。「毎月2万円の基本料金に加え、1回当たり6,000円程度の料金が掛かるが、週末も仕事に追われる身としてはありがたいサービスだ」。しかし、現実は「台風なのでヘルパーがいない。雪なので…、地震があったせいで…」と断られ続けた。「月に1度だけということも珍しくなかった。それでも基本料金は請求された」。それも高齢のヘルパーが多く、「オムツってどうやってあてるんでしょうか」といい出す始末。「ヘルパーの年齢構成は、中高年ほど比率の高い“逆ピラミッド型”なのだ。しかも、キャリア豊富なベテラン…とは呼べない高齢ヘルパーも目立つ」「“仕事がないから介護でもしよう”という“でもしかヘルパー”」が多くなる。訪問入浴もまた「看護師がいないので」と中止の連続。訪問入浴は、2人のへルパーと看護師の付き添いが義務づけられている。「週一回」という医師の指示を無視。そして、とうとう天川さんの母への「虐待沙汰」へと発展していく。
(つづく)
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