日本が陥った死に至る病、処方箋は公共投資でデフレ脱却(中)
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京都大学 大学院工学研究科・都市社会工学専攻 教授 藤井 聡 氏
緊縮病がデフレマインドに、ストックもフローも後進国
――なぜ日本はインフラ整備が進んでこなかったのでしょうか。
藤井 「列島改造論」を推進した田中角栄元首相の時代以後、ストックを作ることに関して強烈な国民の政府アレルギー、公共投資アレルギーが高まり、まっとうな政府投資によるインフラ形成ができなったのが原因です。
しかも、ここ20年は頼みのフローもデフレで経済成長できず、名目GDPシェアは世界の5.9%、つまり日本のプレゼンスがかつての3分の1まで落ちてしまいました。中国にも2倍の格差を付けられており、フローですら後進国になってしまったのが現状です。このフローの落ち込みが、ストック形成をさらに沈滞させています。
さらには国民にはケインズアレルギーもあって、新自由主義的な構造改革、規制緩和がもてはやされました。政府が効果の高いものに投資して民間の投資と消費を誘導していくのがケインズ政策の王道ですが、これが活用されなかった。だから、なかなかデフレ脱却できないのです。日本にはオーステリティ病、いわゆる「緊縮病」という病理がある点も重要です。プライマリーバランスを守らないといけない、支出をカットしないといけない、合理化しないといけない。これが緊縮病でデフレマインドそのものです。民間企業によるデフレの中で生き残るためのリストラやコストカットなどの緊縮なら「合理的」ともいえますが、これとまったく同じことを政府が行なえば景気が悪くなるのは明白です。
民間がデフレ下で投資しなくなるのは仕方ありませんが、そこで政府が代わりに投資しなければ経済は確実に心肺停止状態になります。資本主義は投資と回収を繰り返して生産性を挙げ、雇用を生み出し、富を生み出して豊かになっていくという仕組みです。「緊縮病」は政府にまで広がると「資本主義の溶解」につながり、死に至る病となります。今の日本は死に至る真っ最中で、蘇生させるためには早急に異次元の財政政策が必要です。ただ、安倍内閣は金融政策に関しては異次元のことをしましたが、財政政策に関してはまったく非異次元です。「財政も異次元にしよう」といったのがクルーグマンやスティグリッツであり、古くはケインズであり、それは実際に世界中で成功してきました。日本がそこに舵を切れるかが問われています。彼らの言うことは素直に聞いた方が良いというのが私の率直な感想です。
建設業界の重層構造、品確法から見て変えるべき
――5年前から一貫して藤井さんの主張は変わりませんね。
藤井 デフレ脱却は、これ以上の被害を食い止めようということです。政財界ならびにマスコミが「緊縮病」を患ってしまい、日本はもう崖から落ちてしまったので、このままなら確実に死が待っています。デフレはそれだけ恐ろしい事態なのです。ヨーロッパにもGDPで5倍の差を付けられており、このままでは軍事的、外交的にも国家的自立性を失い隷属化してしまいます。貧しい日本人が再生産されていくことになり、非常に厳しい状況です。むしろ5年前より状況はひどくなっています。
――建設業界は、スーパーゼネコンが黒字でオリンピックまでは続くと見られていますが、その後は不透明です。
藤井 ゼネコンはスーパー中心でオリンピックを重視しており、大手にとって悪くはないですが良くもない市況です。中小企業は私と同じ感覚で厳しいと感じているのではないでしょうか。
―― 一方で、スーパーゼネコンでも海外で失敗したケースもあります。
藤井 海外に出るということ自体、デフレで国内工事ができないことの表れでしょう。何とか海外に討って出たのはいいものの討ち死にして帰ってくると。それは当たり前で、海外は言語や文化などで地の利がないわけですから。
――今の建設業界は大手が利益を得て、下請、孫請となるにつれて取り分が減っていきます。そんな重層構造は変えるべきか、今のままでインフラ整備を進めていけばいいのか、どちらでしょうか。
藤井 今の重層構造は変えるべきですね。それが「公共工事の品質確保の促進に関する法律」いわゆる「品確法」の理念ですから。品確法とは、究極的には各建設業者に公共性があることを認めているものです。それぞれの地域に一定の建設供給力が存在していることが、地域経済を守り、防災を強化し、国土の強靭性を高めるのです。大手にだけお金が回り、中小が倒産していくという構造は品確法の精神的理念からいっても間違っており、発注者責任が問われることになります。
今後は品確法の運用を普遍化していくことが必要です。外国の事例を見ても、アメリカ、フランス、イギリスでは公共調達が1つの業者に集中しないようにしています。日本ではそれが未整備です。日本では成文法的な仕組みではなく社会的慣習で公共調達における「調整」が行なわれてきたわけですが、それが悪だということになりました。だから、そういう「調整」機能を補完する新たな立法的制度が必要なのですが、それがまだないのです。ダンピングの横行も、建設業者間の格差拡大もこのままでは止まりようがありません。(つづく)
【大根田 康介】<プロフィール>
藤井 聡(ふじい・さとし)
1968年奈良県生まれ。京都大学工学部卒、同大学院工学研究科修士課程修了後、同大学助手、スウェーデン・イエテボリ大学心理学科客員研究員、東京工業大学助教授、教授を経て、2009年より京都大学教授。現在は同大学院工学研究科教授。安倍内閣の内閣官房参与も務める。03年土木学会論文賞、05年日本行動計量学会林知己夫賞、06年「表現者」奨励賞、07年文部科学大臣表彰・若手科学者賞、09年日本社会心理学会奨励論文賞、同年度日本学術振興会賞等を受賞。関連記事
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