2024年12月23日( 月 )

耐力偽装を告発した「元・一級建築士からの警告」(全文)(2)

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 鉄筋コンクリート造(RC造)の建物の構造設計で必要な部材や鉄筋量を減らす耐力偽装が行われていたと告発した元・一級建築士の仲盛昭二氏の警告書の全文を紹介する。


各論の説明

(1)接合部の設計
 上記に述べたように、接合部の設計は、以前からRC 規準(鉄筋コンクリート規準)に規定されている項目ですが、検討を省略されていた構造計算書(検討すれば基本的にNG)が殆どであり、建築確認審査において、それを指摘される事もありませんでした。しかし、平成19 年(新法施行)以降、民間確認機関の参入が急激に増え、それまでの事実上のアマチュアの行政に代わり、プロの構造技術者が審査を担当するようになったため、突然、建築確認審査が厳しくなり、特に、この部分(接合部の検討)を指摘されるようになりました。
 接合部の検討を行なうことにより、梁などの断面(特に梁幅)が極端に大きくなり、設計規準を満足する事が出来ない現実が生じる為に、その不都合を回避する手段として、構造設計者は誰もが、この日常化した、耐力偽装を平然と行っていたのです。
 現在でも、鉄筋コンクリート造建物の設計(3 階以上のRC造建物)において、構造設計者が、この部材の肥大化処理(コスト上昇)に頭を抱えている、最大項目の一つが「接合部の検討」です。

(2)鉄筋の付着の検討
 鉄筋の付着の検討は、以前より、RC規準(鉄筋コンクリート規準)にも、明確に規定されている項目です。この検討を、設計に取り入れると、結果的に鉄筋数量が増加する事になるので、構造設計者は、これを嫌って、各種設定を作為的に処理して、構造計算をしていたのです。現在の社会環境を考えると、アンフェアな行為が平然と行われていたと言えます。
 特に、官公庁発注工事の建物の設計に関しては、建築確認を必要とせず、計画通知の提出だけで済むので、担当機関職員の絶対的な技術不足を見透かして、それらの項目を堂々と偽装していた現実があったのです。

(3)柱・壁のスリット問題
 柱・壁のスリット問題も、構造計算内容と構造図面との意図的な不一致、建築現場監督の認識不足が原因の図面軽視による偽装、また、それらの不正を見抜けぬ設計監理者の存在などが、背景にあります。
 今年3月、名古屋の分譲マンションで、図面に明記されていた構造スリットの内、6割が未施工又は施工不良である事が発覚し、大きく報道されました。私は、この記事を書いた中日新聞の記者から取材を受け、「構造スリットの重要性」、「スリットの施工不良により建物にどのような被害が想定されるのか」、「これほど重要な構造スリットが施工されていない建物は、かなりの比率に昇る」ことを話し、警鐘を鳴らしました。
 ゼネコンにとって、構造スリットを設ける事はコストが掛かる分、この施工を省略した場合には大幅なコストダウンになるのです。しかし、安全を犠牲にして、企業の利益の為にコストダウンする事は、到底、許される行為ではありません。
 施主とゼネコンの間では、建築確認通知書の図面に基づいて、工事契約が交わされています。図面通りに施工されていない事は、契約違反であり、建設業法第28条に違反する行為として、行政処分の対象となります。
 今回の熊本地震でも、この問題に関する不正が徐々に明らかになり、大きな社会問題に発展しそうな予感がします。
 因みに、横浜の傾斜したマンションでも、このスリットの未施工の事実が発覚し、新たな問題となっています。同じ不正の中でも、これは、建物の地震時の構造耐力に重大な影響を及ぼす問題点です。

(つづく)

▼関連リンク
・耐力偽装、建築界に蔓延か?部材や鉄筋量を減らす操作~元・一級建築士からの警告
・部材や鉄筋量を減らす耐力偽装、警告の元・一級建築士に聞く(前)

 
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