2024年12月24日( 火 )

耐力偽装を告発した「元・一級建築士からの警告」(全文)(3)

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 鉄筋コンクリート造(RC造)の建物の構造設計で必要な部材や鉄筋量を減らす耐力偽装が行われていたと告発した元・一級建築士の仲盛昭二氏の警告書の全文を紹介する。


小括

 これらの計算に起因する問題は、姉歯事件において、国が、再三、指摘・糾弾していた、プログラムソフトの意図的改竄(かいざん)と全く同じ現象で、姉歯元・建築士が為した行為と、何ら変わる事は無いのです。一貫性を欠いた「耐力偽装」そのものでした。
 これらの検討事項を、規準に忠実に計算して導かれた結果と、偽装して出された結果を耐震強度に換算して比較すると、10~35%の強度が、現段階で不足する状態になっています。
 6月12日夜、熊本で震度5弱の地震が発生しました。4月の地震により、分譲マンションの約8割に被害が発生していると報道されています。4月の本震により被害を受けた建物に更なる被害が発生するのではないかと、熊本の方々は、恐怖を募らせているのではないでしょうか?
 隣県である福岡県は、地域係数が0.8と低減されています。(地域係数1.0の建物より、そもそも20%も耐力が低い)
 これに、構造計算の偽装が重なれば、大地震が発生した場合、熊本以上に、大きな被害が出る事が予想されます。地震による被害を防止する為にも、適切な構造検証、更なる耐震補強が必要です。南海トラフ地震による被害予想が発表される現実を鑑み、敢えて勇気を持って、「元・一級建築士」として、警告・告発に踏み切ることにした次第です。
 過去、接合部の検討の偽装など、構造計算書の偽装に手を染めたのは、構造設計者 (平成18 年以前のRC造建物の構造設計経験者全員) の8割程度に上ると思われます。偽装行為により平成18 年以前の公共建築物・民間建築物の鉄筋コンクリート造、及び鉄骨鉄筋コンクリート造建物の40~70%相当分は、強度不足に陥っているものと思われます。
 基本的な構造計算書の数字が偽装されているのですから、当たり前の結果です。私が代表をしていた設計事務所においては、設計の実務は原則として社員が行っていたので、詳しい事はわかりませんが、恐らく、ここに指摘したような事が行われていた事も当然考えられます。現時点では全く把握していませんが、今後、検証できる物件については、可能な限り、検証を行っていきたいと思っています。
 強度不足の建物は、耐震診断補強とは別の次元で、速やかに不足分を補強する他には選択肢はありません。これは、金融機関にも、担保価値下落などの問題で、飛び火する可能性も秘めており、更なる懸念事項ともなり得るものです。
 何よりも、このところ、大地震に対する国民の恐怖が高まっており、耐震補強と共に、耐力補強の速やかな対策を提起した次第です。
 以上述べてきたように、我が国の建築構造設計の現実は、官、民、及び関係者が、その結果において、長きに亙り国民を欺き続けていたと言わざるを得ない現実があるのです。
 耐震偽装問題が起き、関係する行政庁主導で、構造検証が行われ、各行政庁は、「安全を確認した」と国交省に報告し、国交省もこれを精査する事もなく、そのまま公表していました。しかし、ここに述べた、ほとんどの構造設計者が行っていた、接合部などの偽装について目を瞑っていた為、構造検証においても、再び、偽装をしてしまったのも同然なのです。行政庁から発行された「安全証明書」というものがありますが、安全を証明する確たる根拠が存在している物件は無いと聞いています。この事は、建物の所有者が、行政庁に、安全証明の根拠の提出を要求すれば、事実かどうか、一目瞭然です。今後、私も、建物の所有者に働きかけていきたいと思っています。
 私の仲間が古い構造計算のソフト・ハードとも所有しており、それを使用して、当時の資料を基に実験検証したところ、予想通り、かなりのNGが出る結果となりました。今迄、再検証された全国の建物も、当然この項目に関しては、私の知る限り、接合部の検討などを無視して、また是正する事無く計算・検証されています。それは、この問題が、如何に根深いものであるかを物語っています。判定の基準ラインが間違っているので、再検証の意味を為さない事は言うまでもありません。

 

(つづく)

▼関連リンク
・耐力偽装、建築界に蔓延か?部材や鉄筋量を減らす操作~元・一級建築士からの警告
・部材や鉄筋量を減らす耐力偽装、警告の元・一級建築士に聞く(前)

 
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