THAAD配備で露呈した韓国の統治力不備(前)
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15日、高性能ミサイルの配備をめぐって、韓国首相と国防相が反対住民に取り囲まれ、6時間も車中に「監禁」される騒ぎが起きた。朴槿恵(パク・クネ)大統領が、モンゴルで開かれたASEM首脳会議に出席中に起きた醜態だった。
最近の韓国では、政府の統治力低下による茶番劇が日常茶飯事である。モンゴルでは安倍首相との会談も行われず、日韓関係は相変わらずぎくしゃくしたままだ。ハーグの仲裁裁判所が南シナ海の了解紛争で下した判決に中国は従わず、荒波は東シナ海にも押し寄せてくる気配だ。「韓国の迷走」は、日本の安全保障にとっても危険な指標である。6時間半にわたる首相監禁事件
終末高高度防衛(THAAD)ミサイルの韓国配備は、北朝鮮のミサイル開発に対抗するために、米韓間の懸案だった。しかし、中国に配慮するパク政権はなかなか首肯せず、東北アジアの不安定要因になっていた。そして、ようやく韓国政府が、韓国中部の慶尚北道星州への配備を決めた。
そして15日、現地に首相らが乗り込んで、住民説得を始めた矢先の監禁事件だった。この日、政府代表団の説明会に、住民約3,000人(警察推定)が押し寄せた。住民の抗議が続いたため、首相らが説明会を中断しマイクロバスに乗り込んだところ、住民たちに包囲され動けなくなった。警官約1,200人が「首相救出」に動き、6時間半後に首相らはソウル行きのヘリに乗り込んだというお粗末劇である。日本のテレビでも、首相一行に卵やペットボトルが投げつけられるシーンが放映された。本当にみっともない限りだ。
この事態は、韓国の統治力、警察力がたるんでいる証拠だ。日本では60年安保以来、こんな事件は起きたことがない。米大統領特使を学生デモが包囲した「ハガチー事件」以来、皆無である。1975年には、沖縄の「ひめゆりの塔」で過激派2人が皇太子夫妻に火炎瓶を投げつける事件が起きた。これは、沖縄県警が「沖縄の聖域」であるとして、ひめゆりの塔の事前探索を行わなかったせいだ。皇太子警備より、地元感情を優先したのだ。
今回の「星州の無法デモ」も、同様の構造があったに違いない。地元警察が首相警護より地元民への配慮を優先したためだ。沖縄と違い、慶尚北道は韓国保守政権の“金城湯池”だ。そこで起きた住民の暴走は、政治的にはより一層深刻である。「放置国家」韓国政治の混乱ぶり
韓国は「法治国家」ではなく「放置国家」である。そんな嫌みが言われるようになった。
ソウルに行くと、ビジネス街のど真ん中にある光化門広場で、いくつものテントが立っているのを目にする。2014年に韓国南西海域で沈没したセウォル号の遺族らが、政府に抗議を続けているのだ。東京で言えば、人通りが多い渋谷の交差点近くの広場に、テント村が「放置」されているようなものだ。国内の治安も不備なのに、どうして「敵対国家」の北朝鮮に対応できるだろうか――。これが隣国人としては常識的な不安であるが、当事国の国民はそう思わないようだ。
(つづく)
<プロフィール>
下川 正晴(しもかわ・まさはる)
1949年鹿児島県生まれ。毎日新聞ソウル、バンコク支局長、論説委員、韓国外国語大学客員教授を歴任。2007年4月から大分県立芸術文化短期大学教授(マスメディア論、現代韓国論)。
メールアドレス:simokawa@cba.att.ne.jp関連キーワード
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