韓国経済ウォッチ~半導体業界に起こりつつある地殻変動(後)
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日韓ビジネスコンサルタント 劉明鎬(在日経歴20年)
2つ目は、半導体産業に吹き荒れるM&Aの嵐である。2015年に半導体企業のM&Aの取引金額は1,130億ドルであった。そのトレンドは今年も続きそうだ。
半導体メーカー上位20社の場合、1,300億ドルのキャッシュを保有していて、いつでも買い物ができる状況である。業界では、そのなかでも2社の動向に注目をしている。なかでも、業績低迷で株主から分割の圧力をかけられたクアルコム社は、M&Aに最も積極的になるだろうと市場では予想されている。
クアルコム社は現在、300億ドルくらいの現金を保有していて、サーバー用プロセッサ、IoT(モノのインターネット)、車載半導体などに事業領域を広げようとしている。クアルコム社が最も興味を持っているM&A候補としては、業界では設計専門会社であるカビウム、データセンター向けのチップメーカーであるザイリンクスなどが噂されている。サムスン電子も最近、成長の壁をM&Aで突破しようとしている。中国の存在とサムスン電子の現在の状況は、サムスン電子としてもM&Aに積極的にならざるを得ない状況である。サムスン電子の稼ぎ頭であるメモリ事業の収益悪化、スマホ事業において中国の追い上げを考えると、サムスン電子はM&Aを仕掛けることで、収益基盤の強化とさらなる成長を模索するしかない。
サムスン電子は、これを効果的に実行に移すため、シリコンバレーに拠点をつくり、企業買収のための情報収集に熱心である。サムスン電子は500億ドルの現金を保有していて、今後、中国企業に対抗するためにも、積極的に企業買収に取り組むだろう。
サムスン電子は直近1年間だけでも、10社近くM&Aをしている。そのなかでも、2億ドルを投資して買収したIoTのプラットホームの開発企業であるスマートシングスの買収は、有名な話である。このほかに、ソフトバンクによるARM Holdings(アーム・ホールディングス)の買収も、最近大きな話題になっている。ソフトバンクの孫正義社長は、ARM社を100%買収することで合意したと発表。キャリアによる半導体会社の買収で、今後ソフトバンクは、半導体事業を主軸に捉えたということになる。
ARM社はイギリスに本社のある半導体設計会社で、1つのチップ上に動作に必要なすべての機能を搭載できるように設計を行う、世界的に有名な企業である。一般人にはあまり馴染みがないかもしれないが、スマホの世界では有名な会社で、スマホ半導体の97.98%はこの会社で設計されているのが現状である。ARM社はロンドン証券取引所に上場している会社で、15年の売上高は9.6億ポンド、営業利益は4.0億ポンド、総資産は21.2億ポンドの優良企業である。
孫社長はIoTへの布石として、この会社を買収する決心をしたと記者に話している。買収金額はソフトバンク史上最大である3.3兆円(240億ポンド)である。3つ目は、今後すべての機器同士がインターネットにつながることになるIoT時代の到来と、車載半導体市場の拡大であろう。
これまでは、パソコンと携帯電話を中心に半導体の需要があったが、今後すべての機器がインターネットにつながることになると、巨大な半導体市場が誕生することになる。サムスン電子は、最後に残された巨大市場はIoT市場であると見込んで、プラットホームの開発企業を買収したり、自社製品をIoTでつなぐための構想を練っている。ソフトバンクも同じくそのような意味で、ARM社の買収に踏み込んでいる。
専門家の話によると、電波干渉問題を解決できない限り、IoTは実現できないという指摘もあるが、グローバル企業はこの市場で熱戦を繰り広げている。もう1つは、自動車の分野である。自動車の無人運転の試験が話題になっているが、自動車を制御するための半導体が、今よりも多く必要になってくる。半導体分野ではもう1つの大きな市場の誕生である。
これ以外にも、ヘルスケア分野でも半導体の需要は今後伸びていくに違いないが、その大きな市場をめぐって、半導体業界で今までより激しい競争と変化が起こることは間違いない。(了)
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