THAAD配備で露呈した韓国の統治力不備(後)
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星州へのTHAAD配備が発表されると、大邱・慶尚北道の国会議員25人のうち21人が、一斉に政府決定を非難する声明を発表した。そのなかにはパク政権で閣僚や大統領府首席補佐官を歴任した人物はもちろん、「真朴」と呼ばれる大統領側近の議員もいた。ところが彼らは「監禁劇」が起きると、たちまち表舞台から姿を消した。韓国には「亡国の政治家」が少なくない。それを如実に示した喜劇である。
彼らは「声明」で、何と言っていたのか――。その内容は、「電磁波の真実をありのままに公表せよ」と要求していた。現地では、THAADの電磁波が「人体に致命的な影響をおよぼす」「農産物を汚染する」などといった風評が広がっていた。この「根拠のないデマ」に国会議員らは便乗し、騒ぎが大きくなると、トンズラを決め込んだのだ。米韓当局がTHAADの韓国配備を決定すると、北朝鮮は人民軍参謀部砲兵局長名義の「重大警告」を発表し、「無慈悲な雷を自ら招く」行為と非難した。韓国の野党「国民の党」は議員総会を開き「配備反対」を決議した。かつて統一部長官を務めた鄭東泳(チョン・ドンヨン)・同党議員(元大統領候補)が、「亡国的選択」と非難したのだから、韓国政治の混乱ぶりがわかろうというものだ。次期大統領候補の1人である安哲秀(アン・チョルス)・前代表は「国民投票で民意を問うべきである」と述べた。このような混乱は「韓国の安保空白化」と認識し、対策を考えなければならない。
羅針盤のない迷走外交
2つの新聞論説を紹介しておこう。いずれも保守紙「朝鮮日報」の幹部によるものだ。
「中国の報復がそんなに怖いのか」と書いたのは、宋煕永(ソン・ヒヨン)主筆だ。元東京特派員の経済通。韓国の現役記者のなかでは、私が最も高く評価している人物だ。「心配なのは、韓国の外交に対する信頼が低下していることだ。日本を仇敵のように見なしてきたかと思えば、今年は大統領が日本を訪問するという。対米外交も同盟関係が基軸だという点を忘れ、大統領が天安門の楼閣に登ったと思えば、THAADの配備を受け入れるという両極端な姿勢を見せて来た」。
彼は、これを「がさつな外交」と呼んでいるが、一般的に言えば「迷走外交」である。羅針盤のない外交を続けているうちに、韓国の国力はどんどん低下する。パク政権は、日本で言えば、鳩山由紀夫政権に似ている。これが5年間も任期が保障されているのだから、国力の損害は大きく、周辺国も大迷惑を被る。現状の日韓関係は、そういう位相にある。
次の論説も、韓国の構造的弱点を突いている。朝鮮日報の楊相勲(ヤン・サンフン)論説主幹のコラムだ。
「私たちが『公』よりも『私』を追求しようとするのは、結局、内心では韓国という共同体を大事に思っていないからだ。王朝時代には収奪され続け、やがて植民地に転落し、その後は米国が守ってくれる国になった。自分たちが建国し、大切に守って来た国だと思えない、何か足りない部分があるというのは事実だ」。
これは、韓国史に対する冷徹な史観を表明したコラムとして、注目すべき内容だ。これまで多くの外国人のコリアウォッチャーからこのような指摘はあったが、朝鮮日報という代表的新聞の高級幹部が書いたという事実が重要だ。実は、これらは同紙幹部には共通する史観であると、長年の交際がある私には思える。こういう「自虐史観」が、今や紙面に露呈するようになった。そのことに、むしろ危機感を感じるのは私だけであろうか――。
(了)
<プロフィール>
下川 正晴(しもかわ・まさはる)
1949年鹿児島県生まれ。毎日新聞ソウル、バンコク支局長、論説委員、韓国外国語大学客員教授を歴任。2007年4月から大分県立芸術文化短期大学教授(マスメディア論、現代韓国論)。
メールアドレス:simokawa@cba.att.ne.jp関連記事
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