TPP協定批准で日本は米国の植民地になる!(前)
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元農林水産大臣・弁護士 山田 正彦 氏
今年3月に来日した、ノーベル経済学賞を受賞したコロンビア大学のジョセフ・スティグリッツ教授は、「TPPは自由貿易協定ではない。そうであれば4行(TPP協定は本文、附属書、交換文書を入れて6,300頁)で足りるはずだ。これはグローバル企業のロビイストたちが書き上げた、世界の富を支配する管理貿易協定である」と語った。それは、どういうことか――。
『TPP秘密交渉の正体』(2013年12月 竹書房新書)で警鐘を鳴らし、その後一貫してTPP反対運動の先頭(「TPP交渉差し止め・違憲訴訟の会」幹事長)に立ち活動されている元農林水産大臣・弁護士の山田正彦氏に聞いた。山田氏はインタビューの最後に「TPP協定の本当の内容を知ったら、国民誰1人批准せよとは言わないでしょう!」と付け加えた。「司法主権」が侵害される
――本日は、昨年10月5日に日米など12カ国が合意したTPP交渉のその後の進捗や、今後の行方などについて、いろいろとお聞きしたいと思います。その前に、まずは近々の政治・経済を俯瞰していただけますか。
山田正彦氏(以下、山田) 参議院選挙が行われ、民進党はじめ野党が伸び悩み、自民党圧勝で幕を閉じたことは残念に思っています。一方で、私も応援・遊説しましたが、TPP協定反対を唱えた候補者は、北海道の徳永エリ議員、山形の舟山康江議員をはじめ、全国的にほぼ全員当選できたことは嬉しく思っています。いよいよ、秋の臨時国会では、TPP協定の批准を求めての審議が開始されます。その論戦に備えるために、今全国のTPP協定反対の議員の先生方と密に連絡を取り合っているところです。
参議院選挙後の勢力では、与党と改憲勢力を合わせて、憲法改正の国会発議に必要な3分の2を超えたことにも注目しています。TPPは憲法違反であるため、私は「TPP交渉差し止め・違憲訴訟の会」の幹事長をしているからです。まず、TPPは「生存権」(憲法25条)および「幸福追求権」(憲法13条)を侵害します。また、ISDS条項(投資家対国家間の紛争解決条項)によって、事実上の司法権が日本国ではなく、ICSID(国際投資紛争解決センター)に属すので、「司法主権」(憲法76条1項)が侵害されます。さらに、先の国会での政府提出の黒塗り資料に見られるように、「知る権利」(憲法21条)はすでに侵害されています。TPPではその交渉内容を、発効後4年間秘匿する義務を負う秘密保持契約が加盟国の間で結ばれています。TPP協定を憲法問題としてしっかり捉え、「TPP批准差止」を目指しています。
「英国らしさ」を取り戻す
もう1つの近々の話題は、英国のEU離脱だと思います。私は今回、欧州も回ってきました。日本の新聞・TVだけは、ほぼ全面的に投票結果を批判していますが、英国はもちろん、EU各国の報道では賛否両論があります。その是非は、最終的には歴史の判断に委ねることになると思います。しかし、すべてを株式市場、為替相場、国債などの「金融イベント」だけを中心にして判断するのは誤りです。
私はどちらかと言うと、英国はEUを離脱して良かったのではないかと考えています。このような考え方をするEU各国の市民も多く、スペインもイタリアも続いて離脱する可能性は十分にあると言えます。
その大きな理由の1つは、英国はEUを離脱することによって、国家主権「英国らしさ」を取り戻せることができたからです。現在のEUでは、リーマン・ショックのような金融危機が起こった場合でも、基本的に自国の中央銀行が通貨を切り下げたり、切り上げたり、また通貨そのものを発行することが制限されています。ギリシャの金融危機はその典型でした。ギリシャの国会(たとえば、通貨を切り下げて経済を立て直すこともできた)よりも欧州委員会の方が権限を持っていたのです。これはとてもおかしいことです。税制度は国家の重要な政策
もう1つ忘れてはいけないのは、税の問題です。EU離脱について、日本の新聞・TVの報道では、難民・移民に関する雇用問題ばかりがクローズアップされています。しかし、それは必ずしも正しくありません。英国はEU加盟前には、ガス、電気など公共サービスについて消費税(英国では付加価値税)はゼロでしたが、加入後はEU指令で5%となりました。また、かつては生活必需品、食料品なども消費税はゼロでした。しかし、加入後は一部(食料品の一部や子供服など)を除いて高い消費税がかかるようになっています。このことが、市民の生活を大きく圧迫しているのです。
税制度は、国家にとって最も重要な政策の1つです。どの国家でも、法人税や相続税などを上下させ、国の運営を考えていきます。さらに、大学教育を無償にしていくとか、本来なら自国の権利でできることも、現在のEUでは大きく制限されています。それはEU加盟各国のコントロールを、ほぼすべてにおいて、絶大な権力を持つ欧州委員会が握っているからです。英国のEU離脱は、国民投票による主権者である英国民の判断です。しかし、日本がTPP協定を批准した場合は、主権者である国民の意見を聞くことなく「米国約600社の多国籍企業」に日本が売られる、日本が米国の植民地になってしまうことを意味します。
(つづく)
【金木 亮憲】<プロフィール>
山田 正彦(やまだ・まさひこ)
1942年長崎県五島生まれ。元農林水産大臣・弁護士。「TPP交渉差止・違憲訴訟の会」幹事長。早稲田大学卒業。司法試験合格後に弁護士事務所開業。一方で、五島で牧場を経営。4度目の挑戦で衆議院議員に当選。BSE(狂牛病)に関する法案作りに尽力。2010年6月、
農林水産大臣に就任。著書として『TPP秘密交渉の正体』(竹書房新書)、『「農政」大転換』(宝島社)など多数。関連キーワード
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