TPP協定批准で日本は米国の植民地になる!(中)
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元農林水産大臣・弁護士 山田 正彦 氏
国民7割がTPP協定に反対
――TPP12カ国合意の船頭役を果たしたアメリカのTPP協定発効が、不透明になってきました。次期大統領候補である共和党のドナルド・トランプ氏はTPP離脱を明言、同じく民主党候補者のヒラリー・クリントン氏は「TPP協定最終合意の内容は、アメリカ人の賃金を上昇させるものにはならない」と言い、再交渉を示唆しています。先生はこのアメリカの動きについては、どのようにお感じですか。
山田 ドナルド・トランプ氏については、日本の新聞・TVの報道では過激な発言など面白おかしく取り上げられることが多いです。しかし、トランプ氏はウォール街からは1ドルのお金も受け取っておりません。政策的には、新自由主義の在り方の見直し、貧困格差の拡大を是正、行き過ぎたグローバリゼーションの調整などを掲げ、多くの貧困層から確実な指示を得ています。もともと共和党の支持者はTPP賛成派が多いのですが、最近は「ISDS条項で国の主権が失われる」ことが浸透し、TPP協定反対の党員が増えています。
ヒラリー・クリントン氏は、もともとTPP推進派でした。しかし、現在は「現状には反対」再交渉の必要性を示唆するようになっています。もともと、環境団体や労働組合が支持母体である民主党員は、圧倒的にTPP協定に反対です。民主党の支持母体である全米労働総同盟(日本の連合に相当)のリチャード・トラカム会長は、私がお会いした際に「TPPに賛成する下院議員は1人残らず落選させる」と言っていました。
トランプ、クリントンという2人の大統領候補はもちろん、現在米国では、米議会も各州議会も反対、決定的な事実を言えば、国民の7割がTPP協定に反対しています。この背景には、20年前に締結した北米自由貿易協定(NAFTA)の失敗があり、懲りているのです。TPP協定に8カ国民が反対する
――米国と日本(TPP協定に賛成)以外の国の進捗は、どうなっているのでしょうか。
山田 残りの10カ国は、オーストラリア,ブルネイ,カナダ,チリ,ベトナム,マレーシア,メキシコ,ニュージーランド,ペルー,シンガポールです。
まず、ニュージーランドとオーストラリアは、国民の65%がTPP協定に反対しています。カナダは大筋合意の後、TPPに批判的だったジャスティン・トルドー氏が首相となりました。現在、TPPに関して徹底的な検証を行っています。マレーシアでは、ナジブ・ラザク首相が、今年2月4日のTPP署名式の前の1月27日に、TPPの承認を求めて国会で採決を行いました。しかし、このことにTPP反対派の議員および国民が怒り、現在も政情不安が続いており、関連法案成立のメドは立っていません。
残りの国の状況ですが、ベトナム、シンガポール、ブルネイは批准される予定で、メキシコは大統領府や経済省は歓迎しています。しかし、チリ、ペルーは複雑な状況になっています。チリは国会議員全員が反対で、そしてチリ、ペルーでは国民の多くが反対しています。
今、加盟国12カ国中、国民の多くがTPP協定に反対している国は8カ国におよんでいます。日本政府はアメリカの意向を先取りして、賛成を表明しています。TPP協定は署名から2年以内、2018年2月3日までに12カ国うち、6カ国、GDP85%以上の国の批准ができなければ発効できません。私は今現在の加盟各国の動きを見ていると、発効できない可能性は充分あると思います。
植物だけでなく動物も
――TPP協定は膨大な6,300頁の文書ですが、国民は蚊帳の外です。文書を読んで先生が一番気になった点を教えていただけますか。
山田 どれもすごく大事で、選ぶことは難しいです。ここでは、TPP協定発効後、国民の皆さんにすぐ直接影響がおよぶ「食の安全」についてお話します。
TPP協定が批准されると、日本国民の「食の安全」が脅かされることになります。日本政府は、TPPの説明会では食の安全について、「日本の制度変更を必要とする規定は設けられていないので、遺伝子組み換え食品等、食の安全が脅かされることはない」と説明しました。
しかし、私たちTPP分析チームが原文にあたって調べたところ、TPP協定はかなりのページ数を割いて、「遺伝子組み換え食品」について細かに記載していることがわかりました。米国農務省はTPP協定文書作成後、すぐに「初めて国際貿易協定に遺伝子組み換え食品を盛り込むことができた。これで世界の食糧危機を遺伝子組み換え食品で乗り越えることができる。TPP協定の素晴らしい成果である」と、自画自賛のコメントを出しています。
さらに今回のTPP協定では、バイオテクノロジーによる生産品のなかに植物だけでなく、動物(魚と魚製品など)が含まれています。植物以外で、人間の食用として動物に許可が出たのは初めてのことです。米国では現在、ウォルマート以外のスーパー8,000店は販売を拒否するなど、初の動物の遺伝子組み換え食品に対して、強い反発が広がっています。しかし、TPP協定ではこれらの「遺伝子組み換え鮭」など、多くの遺伝子組み換え食品を安全なものとして、域内での自由な貿易を前提にさまざまな規定が置かれているのです。
日本の国内法では、遺伝子組み換え食品は原則的に輸入禁止となっています。しかし、日本の憲法上では、国内法より条約の方が優位に立ちます。こうした場合は、国内法を書き換えなければなりません。政府の言う「TPPで日本の制度を変更する規定はない」は、“嘘”ということになります。ロシアも中国も販売禁止
「遺伝子組み換え食品は、ヒトの健康に危害をおよぼすことはないのだろうか」という疑問が、国民の皆さんにはあると思います。今回のTPP協定の恐ろしさは、各国の遺伝子組み換え食品の安全性の評価に、モンサントなどから利害関係人としての意見を聞き、それを考慮しなければならない(第8章7条)となっていることです。そこでは、モンサントの提供した実験結果だけが利用されるのではないかと、危惧されているのです。
現在、世界中で遺伝子組み換え食品の危険性が広がってきています。EU諸国では、ほとんどの国が遺伝子組み換え食品をつくらせない、人には食べさせないとしています。最近では、ロシアも中国も遺伝子組み換え食品については健康を害するものとして、生産も販売もさせないことを明らかにしました。
米国はTPP協定を通じて、すぐにでも、自国内で流通している「遺伝子組み換え鮭」の輸入を、日本に求めてくると言われています。さらに、米国はいよいよ小麦も遺伝子組み換えで生産を開始、そのターゲット市場は日本と言われているのです。(つづく)
【金木 亮憲】<プロフィール>
山田 正彦(やまだ・まさひこ)
1942年長崎県五島生まれ。元農林水産大臣・弁護士。「TPP交渉差止・違憲訴訟の会」幹事長。早稲田大学卒業。司法試験合格後に弁護士事務所開業。一方で、五島で牧場を経営。4度目の挑戦で衆議院議員に当選。BSE(狂牛病)に関する法案作りに尽力。2010年6月、
農林水産大臣に就任。著書として『TPP秘密交渉の正体』(竹書房新書)、『「農政」大転換』(宝島社)など多数。関連記事
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