ドナルド・トランプ候補の支持率はなぜ急降下したのか(2)
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副島国家戦略研究所・中田安彦
民主党大会の直前にあった、民主党全国委員会へのハッキングで入手された民主党幹部のメールのウィキリークスへの流出をめぐる対応でもトランプは大きな下手を打っている。この事件の背後にはロシア政府かそれに雇われたハッカーが介在していることがどうやら確実のようだ。政府機関ではないにしろ政党の幹部の情報がハッカーによって盗み出され、それが民主党大会の直前にネットで公開された。このメールには民主党全国委員会の幹部らがヒラリーと予備選挙を戦ったバーニー・サンダースについて「あいつには宗教心があるのか」と書いていたことがわかったほか、ヒラリーに対してえこひいきをしようとしていたことが証拠として上がり、その責任をとって全国委員長だったフロリダ州選出の下院議員の女性が辞任することになった(ただ、ヒラリー選対の幹部に横滑りしている)。
この事件のあとトランプは記者会見し、「ロシアよ、ヒラリーが自分のサーバーから消した電子メール三万通を探しだしてくれ」とロシアに対してハッキングを「要請」する発言を行ったのがいけなかった。どこの国に他の国にお願いして、自分の国の次期大統領候補の内部情報を暴露するようにお願いする大統領候補者がいるのか、ということで、当然のことながら民主党のみならず、共和党からも非難を浴びたのである。中にはトランプのことを非国民(un-American)とする論評もあったほどだ。
このことをきっかけにトランプとロシアの関係が詮索されることになっていった。トランプはロシアにホテルを建てようとしていたほか、2013年にはミス・ユニバースの世界大会をモスクワで開催しており、その時に多少の接点がプーチンとの間に生まれたようだ。さらに言えば、トランプ選対の最高責任者であるポール・マナフォートという人物はもともとコンサルタントで、プーチン大統領が支えていたウクライナの独裁者であるヤヌコヴィッチ元大統領のPRアドバイザーをしていた経歴を持つ。
トランプはウクライナに関しても同じ会見で、「自分が大統領になったらロシアのクリミア併合を認める」とか「ロシアがウクライナに足を踏み入れたことはない」とも発言している。これは明らかに誤りだ。トランプの言い分としては、クリミアの住人の意思がロシアへの帰属を歓迎しているからだ、というのだが、だからといって、クリミア併合という力による現状変更というロシアの国際法違反を許して良いのかと批判されている。ご存知のように、トランプは外交政策の基本としてアイソレーショニズムを掲げている。これは他国に軍事介入や軍事的な関与をするのではなく、自国の抱える問題をまず解決しようとする考え方だ。その「アメリカ・ファースト!」の考えから、トランプはNATOの同盟国や、日本や韓国などのアジアの同盟国にもっと軍事的な費用や人力を負担させるべきだと考えている。この辺りはもう日本でもかなり報道された。
トランプが純粋にアメリカ・ファーストの考えからそのように同盟国への関与を減らしたいと思っているのであればそれは良い。しかし、そこでトランプがロシアと繋がることで利益を得ようとしているのであれば話は違う。既に紹介したマナフォート以外にもトランプ陣営では、ロシアの国営ガス会社ガスプロムのアドバイザーをしていた人物がエネルギー政策の顧問として加わっている。トランプがNATOの弱体化を図る一方で、ロシアと昵懇になっているのではないか、そのように考えるむきがあるのは当然だろう。これはある種の陰謀論のたぐいの話ではあるのだが、まったく根拠が無いわけではない。
(つづく)
<プロフィール>
中田 安彦(なかた・やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。関連キーワード
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