2024年11月27日( 水 )

施工不良で視界不良になった東亜建設工業の行く末(前)

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 今年5月6日、衝撃的なニュースが世間をにぎわせた。海洋土木大手の東亜建設工業(株)が東京国際空港(羽田空港)C滑走路の地盤改良工事で、発注者である国土交通省への虚偽報告と施工不良を公表したからだ。同社の行く末は今後、どうなっていくのか。

新工法の採用が発端

 東亜建設工業(株)が羽田空港の施工不良を発表して以降、新たに羽田空港1件、松山空港1件、福岡空港2件の計4件の地盤改良工事で同様の虚偽報告と施工不良が見つかり、20日には熊本県八代市の八代港の岸壁の地盤改良工事で虚偽報告が発覚した。

 いずれも共通するのは、同社が独自開発した「バルーングラウト工法」という新技術が用いられた点だ【図1】。地中に薬液を注入し、直径約2メートルの薬液の塊をつくって地中の水分をはじき出し、地震の際に地盤の液状化を防ぐのが特徴だ。だが、今回の地盤改良工事ではその薬液が計画通りに注入できておらず、地盤が隆起するなどの問題が起き、結果的には滑走路に関しては不適切な工法だったことを同社が認めたのだ。
 八代港では薬液は手順通りに注入し施工不良はないが、強度試験を行うボーリング供試体(薬液が地盤を固めたかどうか調べるための土砂)を、別の現場で採取した土砂に薬液を混ぜた供試体に差し替えるという偽造が見つかった。その後、同社が過去10年間に実施した同様の公共工事全30件を精査。上記以外の工事については、施工不良は確認されなかったという。

z1s 図1 空港における地盤改良工事のイメージ図

 この事件により6月までに、まず当時代表取締役会長だった鈴木行雄氏と代表取締役社長だった松尾正臣氏が代表権のない相談役に退き、代表取締役副社長だった秋山優樹氏が社長になった。

 一方で7月、地盤改良工事の偽装に関わった社員のうち、責任の重い2人を8月末付で諭旨解雇にすると発表した。そのうち1人は、最も施工不良の規模が大きかった羽田空港C滑走路の工事の際に東京支店長だった社員。当時は常務執行役員で、施工不良を起こした同社の「バルーングラウト工法」の受注獲得で中心的な役割を果たしていたという。施工途中に現場からトラブルの報告を受けても、「絶対に失敗はできない」とプレッシャーをかけ適切に対処しなかったとされるが、当人は不正の認識はなかったようだ。
 もう1人は、バルーングラウト工法を開発したエンジニアリング事業部の課長クラス。社内調査に対し、不正の指示はしていないと答えているという。そのほか、執行役員と社員を合わせて5人を降格、31人を5~50%の減給1カ月の処分にし、処分対象者は全体で計38人に上った。

 老舗の大手企業がなぜこのような事態に陥ったのか――。同月26日に同社が公表した調査報告書および国交省が設置した有識者委員会の中間報告書を基に分析していきたいが、その前に同社がどんな企業なのか振り返っておこう。

(つづく)
【大根田 康介】

<COMPANY INFORMATION>
東亜建設工業(株)
代 表:秋山 優樹
所在地:東京都新宿区西新宿3-7-1
創 業:1908年
設 立:1920年1月
資本金:189億7,665万円
売上高:(16/3連結)2,002億8,200万円

 
(中)

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