ドナルド・トランプ候補の支持率はなぜ急降下したのか(3)
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副島国家戦略研究所・中田安彦
カーン大尉の遺族に対する批判とロシア擁護の発言、そういう背景からトランプに対しては、安全保障関係者だけではなく、一般の無党派層からも疑いの目で見られているのだろう。トランプ選対は事実上、マナフォートがいなくては機能しない状態であり、ヒラリー陣営に比べて危機に対する対応が弱いようだ。
そこで、アメリカのナイトショーというコメディ番組でトランプがどのように風刺されているかというと、「マンチュリアン・キャンディデット」(The Manchurian Candidate,MC)である。MCというのは日本では「影なき狙撃者」と題される映画のタイトルであり、この映画は朝鮮戦争で捕虜となった元兵士が、共産主義政府の洗脳を受けて帰国し、共産党エージェントして活動するという冷戦期に共産主義の恐ろしさを描いたものである。マンチュリアンというのは「満州の」という意味であり、要するに中国共産党のことだ。転じて、このMCという言葉は、「敵対勢力から洗脳されて破壊工作を行う売国政治家」という意味としてアメリカ政治評論では普通に使われている。イラク戦争の時には、舞台を中東に変えてリメイクが制作された。
最近のトランプは、ヒラリー攻撃のチャンスが与えられると、自分で問題発言を繰り返し、メディアから袋叩きにされることが増えている。6月にフロリダ州オーランドでゲイバーがテロリストに襲撃された時もお悔やみの言葉の前に「俺が言ったとおりになった」とツイッターに書き込んで不謹慎だと批判されたりもした。今回のカーン夫妻や民主党へのメールハッキング問題に対してもうまい切り返し方があったはずだが、トランプは感情のままにタブーとされることを発言してしまって、メディアから袋叩きにあっている。彼の熱心な支持者であれば、そこにカタルシスを感じるのだろうが、無党派の有権者から見れば、「ちょっとこれは」という反応になる。
このようにトランプがあまりにも不合理な発言ばかりを繰り返すので、「あいつはどこかの勢力エージェントじゃないか」と陰口を叩かれるわけだ。トランプを操っている候補としては、これまではヒラリー陣営というジョークがあったが、最近はそこにロシアが加わったのだ。トランプは数年前まではクリントン家とは良好な関係だったし、ロシアにとっても利用しがいのある政治家であることを考えれば、なかなか良く出来た笑い話ではないか。
冗談はさておき、このトランプの支持率急降下問題が数週間後の世論調査でも巻き返せない場合は、トランプが逆転するには、相当に大きなヒラリーのスキャンダルが10月に発覚してもらう必要がある。これが「オクトーバー・サプライズ」というやつだ。カーター大統領がレーガン候補に逆転を許したのも、カーターがイラン大使館人質事件を選挙期間中に解決できなかった、という「サプライズ」があったためだ。以後、アメリカ大統領選挙では投票日の前月の10月に大きなことを起きることを「オクトーバー・サプライズ」と呼ぶようになっている。
今回、レーガンの再来を目指すトランプにとって、勝敗を決めるのは、ヒラリーのスキャンダルといサプライズである。これがなければ、ヒラリーはこのまま勝つだろう。これがこれまで書いてきた私の予測だ。
そこで、何がスキャンダルとなりうるのかといえば、以下の3つだろう。まず、ヒラリーが国務長官時代に自前のメールサーバーを使っており、そのサーバーのメールを大量に消去したこと(いわゆるメール問題)が再燃するケース、さらにその消去したメールの中に、ビル・クリントンが運営するクリントン財団をめぐる不明朗な金銭スキャンダルの証拠が含まれるケース、あるいは、メール問題の発端になった2012年9月11日にリビアのベンガジ領事館で起きた米国務省職員虐殺事件に関わる新事実が記載されたメールが流出するケース。この3つのケースにほぼ限られる。
(つづく)
<プロフィール>
中田 安彦(なかた・やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。関連キーワード
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