ドナルド・トランプ候補の支持率はなぜ急降下したのか(4)
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副島国家戦略研究所・中田安彦
メール問題については、7月上旬にヒラリーの不起訴をFBIが発表しているし、今回トランプが、ロシアにハッキングを堂々と「依頼」してしまったので、ロシアが今回の流出には関与していたとしても、第二弾があるかどうかはわからない。民主党全国委員会のメール流出以降、ロシアに滞在しているエドワード・スノーデン元CIA職員が、メールデータの流出元であるウィキリークスのジュリアン・アサンジ(イギリスのエクアドル大使館に逃げ込んでいる)を批判する動きを見せている。ロシアとしてはこれ以上関わりあいになりたくないのかもしれない。
一方、トランプも様々な問題を抱えている。最大の問題は、まず第一にトランプが「歩く失言製造機」であることだ。カーン大尉の遺族への反論以前は、問題発言が乱発しているとはいえ、なんとなく一線を守っていた感があったトランプだが、今回は米国民の愛国心を逆なでするような発言があり、致命傷になるかもしれない。やはり、品位(decency)に欠ける発言を有権者は嫌う。もう一つは、トランプが経営者時代にやっていたトランプ大学という通信教育の詐欺的商法の問題で新事実が発覚すること、更にはトランプの女性問題である。既にニューヨーク・タイムズが女性問題について予備選の段階で報じている。最近、共和党・保守系メディアのFOXニュースの重鎮であった、ロジャー・アイルズという幹部が局員にセクハラをしていたことが発覚し、ルパート・マードックによって引導を渡されたスキャンダルが党大会と並行して起きている。日本の都知事選でも野党候補の女性問題が週刊誌で報じられて物議をかもしたが、アメリカでもセクハラや性的暴力についてはかなり厳しく断罪されるようになっている。
トランプだけではなく、選挙対策本部が脆弱であるという問題もある。トランプは予備選挙勝利に立役者である側近であったルワンドウフスキを解任して、現在は事実上トップである、政治コンサルタントのポール・マナフォートと、長女イヴァンカ・トランプの側近でファッション界から抜擢されたホープ・ヒックス女史、それから広報部長としてトランプの選挙運動に早くから関与している、カトリナ・ピアソン女史らが切り盛りしている。ところが、トランプの失言を擁護するはずの選対幹部が更に失言を上塗りし始めている状況が生まれていて、これにはマナフォートもおカンムリだと報じられている。9月上旬のレイバーデイまでに立て直されなければ、トランプ陣営は完全にヒラリーのスキャンダル頼みの選挙運動になるだろう。
さらに言えば、トランプの候補者としての資質や、反TPPなど保護主義的な政策の問題から、本来共和党の資金源になるはずのウォール街や大企業、そしてコーク財閥のような常連献金者からの資金提供を受けられないという問題もある。したがって、トランプの選挙は自己資金と小口献金に依存することになる。無論、トランプの「売り」はそのような利権集団からのカネを貰わない、ということだから問題はない、という見方もできるだろうが。
このように、トランプは自らで自らの首を絞める形で支持率が急低下している。その背景になったのが軍人批判というタブーをトランプがおかしたということにあるが、そこでハッと気づくのは、それぞれに登場する党大会のゲストスピーカーの面々を見ても、いまや共和党よりも民主党のほうが「軍国主義的」であるということだ。共和党大会にもゲストとして元軍人は登場したが、階級としては下の人間であったのに対して、民主党は4日目に元アフガン駐留軍司令官のジョン・アレン海兵隊退役大将をゲストに呼んでいることだ。共和党がヒラリーの国務長官時代の判断を批判させるために元軍人を登場させたのとは対照的に、アレン元司令官は「テロとの戦い」との文脈で、正面からヒラリーが最高司令官にふさわしいという演説をした。これは軍国主義の称揚と取る向きもあったため、アレン司令官のスピーチのさなかは「これ以上戦争は沢山だ(ノー・モア・ウォー)」とする抗議の声と「USA!USA!」の愛国主義の掛け声で騒然となっていた。その直前に登場したスピーカーが、あのカーン夫妻だった。「祖国の為に犠牲を払うことが尊いことだ」という愛国主義トーンで民主党大会の最終日が彩られていたのは異様な雰囲気だった。これにはリベラル派の論客からかなり異論があったようだ。(例えば、左翼雑誌ネーションのThe Temptations of Militarism: Gen. John Allen at the DNCという記事など)
(つづく)
<プロフィール>
中田 安彦(なかた・やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。関連キーワード
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