交通事故が激減、年間死傷者は2ケタに!(中)
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日本大学 理工学部 交通システム工学科 准教授 安井 一彦 氏
交通管制センターの規模・機能は世界最大
――東京の売りの1つとして、公共交通の充実を挙げる識者も多くいます。先生のご専門の交通管理の分野では、ロンドンやパリ、ニューヨークなどと比べて、東京はどのようなレベルにありますか。
安井 東京の交通管理は、ロンドンやパリ、ニューヨークなど世界の主要都市と比べてもトップクラスにあると言えます。道路網はもちろん、地下鉄網などの公共交通においては、面積当たりの充実度はトップに近いと言えます。とくに東京の地下鉄は3社、4社の路線で乗り換える必要がない、相互乗り入れが実現しています。これは私の知る限り、世界でもあまり例がない、すごいところだと思っています。さらに言えば、交通マナーについても、東京は世界のトップクラスの北欧のスウェーデンやデンマークなどの主要都市と比べても、ひけをとっていません。
私の専門分野でもある信号制御・交通制御の分野においても、最適な制御という点で東京は世界のトップクラスで、もうこれ以上改善の余地はないのではないかというぐらいのレベルに到達しています。警視庁の交通管制センターの規模・機能は世界最大で、都内の約9,000機の信号機をコンピューターで24時間、365日コントロールしています。
警察車両が犯人を追いかける場合、現在では、緊急走行をすると、自分のIDを交通管制センターに自動的に送信し、その警察車両は主要交差点を極力青信号で通過できるシステムが実現できています。実証実験が終わり、実用化にも成功
――交通システムを研究・開発する技術とかプロトコールは、世界共通なのですか。
安井 世界標準で、「ITS」(Intelligent Transport Systems:高度道路交通システム)というシステムがあります。これは、人と道路と自動車の間で情報の受発信を行い、道路交通が抱える事故や渋滞、環境対策など、さまざまな課題を解決するためのシステムのことを言います。最先端の情報通信や制御技術を活用して、道路交通の最適化を図ると同時に、事故や渋滞の解消、省エネや環境との共存を図っています。関連技術は多岐にわたり、社会システムを大きく変えるプロジェクトとして、新しい産業や市場をつくり出す可能性も秘めています。
ITS関係の研究開発を行う研究者や企業、行政の関係者が、活動成果を発表する会議である「ITS世界会議」の第1回が1994年にパリで開催され、その後、毎年開催されています。開催地は、欧州、アメリカ、アジア・太平洋の3地域のなかから順番に決められます。日本では95年の第2回大会が横浜、2004年の第11回大会が名古屋、13年の第20回大会が東京でそれぞれ開催されました。東京大会では、69カ国から3,935名が会議に参加し、展示会場には2万1,029名が集まる一大イベントとなりました。
このITS世界会議では、約20年前に以下の9つの研究・開発分野を挙げました。日本は現在、この9つの分野のすべてで実証実験が終わり、実用化にも成功しています。とくに渋滞情報システムなどは、世界で一斉に開発がスタートして、日本が一番早くゴールに到達しています。
1.ナビゲーションシステムの高度化(交通関連情報と目的地情報の提供)
2.自動料金収受システム(自動料金収受)
3.安全運転の支援(AHS等による危険警告・自動運転)
4.交通管理の最適化(経路誘導、信号制御等)
5.道路管理の効率化(公共交通の運行状況の提供等)
6.公共交通の支援(公共交通の運行状況の提供等)
7.商用車の効率化(商用車の運行管理支援、連続自動運転)
8.歩行者等の支援(歩行者への経路・施設案内)
9.緊急車両の運行支援(緊急時自動通報、緊急車両経路誘導・救援活動支援)世界のコミュニケーション技術の趨勢はWiFi
日本は10年以上前のITS世界会議で、交通管理システムや渋滞情報システムのプレゼンテーションを行い、参加者から評価を受けました。それは「VICS」(渋滞や交通規制などの道路交通情報をリアルタイムに送信し、カーナビゲーションなどの車載機に文字・図形で表示する情報通信システム)情報を「電波ビーコン」(交通情報提供の装置で、主に高速道路に設置)や「光ビーコン」(同、主に幹線道路に設置)を受けることを基本としていました。しかし、当時の世界の研究・開発の趨勢は、すでに電波や光ではなく、スマートフォンで利用できるWiFiに移行していたのです。
日本の技術開発のガラパゴス化の話は多いですが、これもその一例です。現時点で言えば、電波と光を使っているのは、私の知る限り世界で日本だけです。日本の場合、1度得た利権を業者が手放すことを嫌うので、このようなおかしなこともときどき起こります。
WiFiスポットを設ける方針で進む
しかし、2020年東京五輪では、WiFiをいかに上手く使い、来日外国人や観光客に料金の負担なく情報を流せるのかが重要になってきます。そうでないと、日本は“WiFi後進国”の烙印を押されてしまいます。今、私が聞いている範囲では、大きな街路や外国人がよく通りそうな一般路にも、すべてWiFiスポットを設ける方針で準備が進んでいます。この2020年東京五輪を契機に、日本の交通の通信技術も、電波や光から離れ、世界の趨勢のWiFiの方向へ進んでいけば好ましいと感じています。交差点の4隅の信号柱をWiFiスポットとして活用するのも有効です。
すでに市販のカーナビなみの性能で、VICSからの渋滞情報も入手できる、WiFiを使ったカーナビソフトが、スマートフォンで無料使用できるようになっています。(つづく)
【金木 亮憲】<プロフィール>
安井 一彦(やすい・かずひこ)
日本大学理工学部工学部交通システム工学科 准教授。
1959年生まれ。81年3月、日本大学理工学部交通工学科卒業後。同年4月に同大学理工学部交通工学科副手。85年4月に同大学理工学部交通工学科助手、97年10月に博士(工学)取得。99年4月、同大学理工学部社会交通工学科専任講師、99年4月~2005年3月、(財)日本交通管理技術協会参与(非常勤)を経て、現職。関連記事
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