2024年12月23日( 月 )

「平成の玉音放送」を海外メディアはどう報じたか(2)

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SNSI・副島国家戦略研究所 中田 安彦

 その点で、かなり踏み込んだ推測をしているのが、アメリカでウェブニュース界の風雲児として近年、台頭してきた、「デイリー・ビースト」の記事だ。同メディアは、以前、「ニューズウィーク」(「ワシントン・ポスト」が手放した)を所有していたこともある。「天皇の逆襲:日本の立憲君主が帝国主義者安倍に挑戦」(The Emperor Strikes Back: Japan's Monarch Takes on Inperialist Abe )という刺激的なタイトルがすでに多くを物語っているこの記事は、ジャーナリストの山本真理氏と中本哲史の別名を持つジェイク・エーデルスタイン氏によるものだ。

sora この記事では、安倍政権が右傾化の傾向を強めるなかで、多くの識者が天皇陛下の公的なステートメントに変化が見られるようになっていると指摘しているとし、今年だけでも天皇陛下が何回か戦時中の経験や「あの戦争から学ぶ必要」について述べていることに注目している。その他、2013年の天皇誕生日の際のお言葉を紹介し、そのリベラルで平和主義的な内容は、「戦後レジームの脱却」(shake off the post-war regime)という日本版ネオコンの願望とはまったく異なるものだと指摘している。この日本版ネオコンのなかに、安倍首相ら自民党右派が含まれているのは言うまでもない。
 さらに、記事は天皇陛下だけではなく、皇太子殿下が12年以降、憲法について繰り返し言及したり、「歴史を次の世代に正しく伝えていくことの必要性」について述べられたことや、皇后さまもご誕生日に「終戦70年の感想を求められた際に、「A級戦犯に対する判決の言い渡しを聞いた時の強い恐怖」について述べられたとして、14年の書面インタビューについて紹介している。

 さらに、これは直接今回の「生前退位」について報じた記事ではないが、昨年の「ワシントン・ポスト」も、「立憲主義を無視する安倍政権に対して批判的な天皇陛下」というスタンスで報じていたことは見逃せない。
 それは15年8月11日と15日に掲載された2つの記事で、それぞれ「天皇陛下が日本の平和主義からの漂流に対して堂々と批判を加える」(Emperor offers a regal critique of Japan’s drift away from pacifism)とする記事と、「日本の天皇が平和主義についての論争で安倍首相と袂を分かった」(Japan’s emperor appears to part ways with Abe on pacifism debate)とする記事だ。2つは同紙の東京支局長であるアンナ・フィールド氏によるものだ。最初の記事は終戦70周年の日の天皇陛下のお言葉がどのような内容になるかを予測した記事で、15日のものは実際に日本武道館での全国戦没者追悼式でのお言葉を受けてのものだ。

 最初の記事では「天皇があまり発言をしないのは日本にアメリカが与えた憲法のためだ」と前置きをしつつ、しかし、「天皇は憲法上課せられた制限を回避する手段を発見し、特徴的に微妙な言い回しで、安倍晋三首相が導く日本の進路に対して不快(displeasure)の意を示しているように見える」と指摘している。記事では終戦の日が近づくにつれ、「遠回しではあるが、天皇陛下は首相やその目標に対して懸念を表明されているように見える」と述べ、中国東北部・満州への侵攻について触れた、15年の新年のお言葉をその一例として紹介している。(該当箇所は「満州事変に始まるこの戦争の歴史を十分に学び,今後の日本のあり方を考えていくことが,今,極めて大切なことだと思っています」という部分)

 フィールド記者は、終戦の日のお言葉については、天皇陛下が例年使用されている“deep sorrow”(深い悲しみ)に、“deep remorse”(深い反省)が加わっていたことを指摘し、この「反省」という言葉の使用が、安倍政権が進めている「より好戦的(aggressive)な形式の平和主義に対する批判であると考える」という日本人識者のコメントを紹介している。

 念のため、宮内庁のウェブサイトで調べると、たしかに15年(平成27年)の「終戦の日」のお言葉では、「ここに過去を顧み,さきの大戦に対する深い反省と共に,今後,戦争の惨禍が再び繰り返されぬことを切に願い,全国民と共に,戦陣に散り戦禍に倒れた人々に対し,心からなる追悼の意を表し,世界の平和と我が国の一層の発展を祈ります」とある。
 一方、その前年から過去の「お言葉」では、「ここに歴史を顧み,戦争の惨禍が再び繰り返されないことを切に願い,全国民と共に,戦陣に散り戦禍に倒れた人々に対し,心から追悼の意を表し,世界の平和と我が国の一層の発展を祈ります。」となっている。ただ、remorseの語は、前日8月14日に発表された「安倍談話」でも使われていた。(宮内庁:主な式典におけるおことば

 天皇陛下が意識的に言葉遣いを変えられたのか、それとも安倍談話に従って、一語を加えたのかはわからないが、ワシントン・ポストやデイリー・ビーストが書いているように、海外のメディアでは、「平和主義者である天皇陛下と帝国主義者である安倍晋三首相の立憲主義をめぐる考え方の違い」という視点で基本的には報じられていることはたしかであり、この点に安倍首相は留意した方がいいと思う。

(つづく)

<プロフィール>
nakata中田 安彦(なかた・やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。

 
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