「平成の玉音放送」を海外メディアはどう報じたか(4・終)
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SNSI・副島国家戦略研究所 中田 安彦
この動画以外にも、安倍政権は憲法をないがしろにする行動がこれまでに比べて増えている。大きなものでは、安倍政権の高市早苗法務大臣が、放送法違反を理由に放送局へ「停波」を命じる可能性に言及したり、安倍政権の官房副長官になった萩生田光一氏が、党副幹事長時代の2014年に、総選挙に際して、「選挙時期における報道の公平中立ならびに公正の確保についてのお願い」と題する報道に対する露骨な圧力文書を送りつけ、こと細かに選挙報道について指示していたことなど、憲法21条の表現の自由に違反すると思われる行為を政府与党の関係者が行っていたという事件も起きている。それから、去年、「強行採決」された安保法制そのものが憲法違反の疑いが強い。
また天皇陛下のお言葉自体についても、NHKが13年(平成25年)暮れの天皇誕生日に際しての記者会見のやり取り(13年12月18日)のうち、天皇陛下が護憲派としての思いを語った部分を綺麗にカットして報じていたということが問題になった。この報道が問題になった翌年に、安倍首相の肝いりの人事で、籾井勝人氏が会長に就任し、有名な「政府が右と言うものを左と言うわけにはいかない」という報道機関の中立性を無視する発言を行って批判を浴びた。安倍政権に批判的な報道を行うキャスターが、相次いで降板させられたことも記憶に新しい。
安倍政権に対して、大手メディアはあまりにも萎縮してしまっている。海外のメディアは天皇陛下と安倍政権の緊張関係を報じる一方で、そのような報道への圧力についても敏感に感じ取って、それを記事にして世界に伝えているのだ。
(参考:http://biz-journal.jp/2014/01/post_3936.html)
(http://www.kunaicho.go.jp/okotoba/01/kaiken/kaiken-h25e.html)
(http://www.economist.com/news/asia/21693269-criticism-government-being-airbrushed-out-news-shows-anchors-away)そのような憲法の精神をないがしろにする現政権が、いよいよ改憲勢力3分の2を押さえた状況のなかで、陛下は「救国のトリック」を仕掛けることにしたのだろう、と私は見ている。
それが「生前退位の意思」のご表明によって、再び日本国憲法に規定されている象徴天皇の意義について、国民に深く認識してもらうことである。その結果として、皇室典範の改正について国民的議論となり、さらにその結果として、安倍政権が進める憲法改正論議が大幅に遅れることになるということも含めて意図されたのではないかと思う。現在の日本国憲法の制度のもとでは、終戦の昭和天皇の「ご聖断」のように天皇が国家体制の危機に重要な意思を示すことは本来想定されていない。しかし、今回のお気持ちはそれに近いものだと見ても構わないだろう。終戦の日の1週間前のお気持ち表明という「タイミング」が、すべてを物語っている。自民党のなかには、男系天皇のみを認めるか、それとも女系天皇を含めて認める皇室典範の改正を行うべきかで大きく意見が分かれている。改憲勢力3分の2の実現を受けて、憲法改正論議が一直線に進み始める流れに対して、「象徴天皇の存在をどうするか?」という一石を投じられたのだ。すべては、「この憲法を尊重し擁護する義務」という日本国憲法99条に定められた天皇や国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員に対する要請を果たすためである。安倍政権があからさまに報道の自由への圧力を加えて「憲法違反」を侵すなかで、天皇陛下は憲法に違反しない範囲で言挙げを行ったわけである。
天皇陛下は8月の玉音放送において、そのような思いを込めたのだろう。陛下は政治的な主張をあからさまには語られないが、問わず語りにそれを語っている。そして、海外のメディアは、日本のメディアが言葉を濁して語らない部分を、オブラートなしでよく伝えている。
(了)
<プロフィール>
中田 安彦(なかた・やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。関連キーワード
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