東ヨーロッパには何があるのだろう(12)
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北のエルサレムのユダヤ人は総人口の28%から0.1%へ
ドイツ侵攻当時、リトアニアには20万人を超えるユダヤ人がいた。“命のビザ”で救われたのは、そのなかの6,000人。ドイツはリトアニアを占領すると、すぐにホロコースト(大量虐殺)を始めた。19万6,000人ものユダヤ人がその犠牲になったと言われる。
意外なことに、ユダヤ人を殺したのはドイツ人だけではない。多くの若いリトアニア人もそれに手を貸した。若さは純粋に正義と大義を昇華する。カンボジアの殺戮も、日本の特攻も、イスラム国の自爆も、主役はみんな若者だ。そしてそれを純粋に導くのは、老練な大人だ。
もちろん、老若だけがすべてではない。自らの繁栄のために、自ら以外のものは攻撃の対象とする。それが“Race=競争”人類だ。けっしてヒューマニズムの“Human”ではない。冷静さと余裕を欠く環境にさらされると、相当の博愛意識と平等主義を持たない限り、人は大体においてレイシズムに基づく行動をとることを歴史が示している。関東大震災のとき、朝鮮人が井戸に毒を入れたという噂を拡げ、(我が同胞が)彼らを撲殺した事実も同じだ。リトアニアの国民も、ポーランドの侵攻やナチスによる支配以降も、自国の国境警備兵を誘拐したというソ連のなかば言いがかりのような理由による侵攻、併合の憂き目に遭ったという。さらに、それにともなうその後の数限りない弾圧で国民は辛酸を嘗めた後、何とか独立を勝ち取った。
そんなリトアニアは現在、ナチスを象徴するハーケンクロイツはもちろん、ソビエトを想起する赤い星や鎌と槌をあしらったバッジ、旗、旧ソ連国歌などを法律で禁止している。もちろん、かつては街に溢れていただろうソ連の文字キリル文字は、どこにも見られない。ロシアからの観光客も少なくないだろうし、国民のほとんどがその文字を理解するということから考えても、ロシアに対するリトアニア国民のある思いが見て取れる。 世界は多様だ。自国の首都に住む自国民が過半数に少し足した数というのは、我々の常識では想像もできない。この一世紀足らずの間に、民族別の居住者数が極端に変化しているのも、この国の特徴だ。もちろん、それは経済的な理由だけではない。政治がその根元にある。政治を言い換えると“民族紛争”だ。それが今でも続いているのは、市民の心の中をのぞいてみればわかる。
バスのドライバーのヴィタスも、いざというときのために、ロシア語と英語を操る。もちろん彼だけではない。この国の80%が、ロシア語を話せる。
ちなみに現在、リトアニアには154の国籍の人が住んでいるという。大嫌いな国の言葉を学び、身につける理由は、おそらくいざというときのための自衛だ。いざというときに言葉がわかれば、命のリスクが幾分かは少なくなる。これも海という強固な砦に囲まれた単一民族で固まる我々には、理解できない現実だ。
ロシアもドイツもフランスもイギリスも。ヨーロッパの国々はおそらく、どんな時代でもどの世代でも、疑心暗鬼の霧の中でもがいている。壁はなくならない
過去の反省から、多くの労苦と工夫を重ねてつくり上げたせっかくのEU(欧州連合)も、少しバランスが狂っただけで、存亡の危機に陥る。いつの時代でも、共同体という融和の旗を掲げるのは容易ではない。英国のEU離脱も、香港の一国2制度の揺らぎも、同じ構図である。
カウナスの「杉原記念館」は、現地スタッフ3人で運営されているという。おそらく日本政府や外務省のサポートはない。そのことに対して、想いは複雑だ。コメントもない。ただ言えることは、人間の世界にはあまねく理不尽が満ちているということだ。
(つづく)
<プロフィール>
神戸 彲(かんべ・みずち)
1947年生まれ、宮崎県出身。74年寿屋入社、えじまや社長、ハロー専務などを経て、2003年ハローデイに入社。取締役、常務を経て、09年に同社を退社。10年1月に(株)ハイマートの顧問に就任し、同5月に代表取締役社長に就任。流通コンサルタント業「スーパーマーケットプランニング未来」の代表を経て、現在は流通アナリスト。関連記事
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